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57章 抹消5 [リリカルなのはss]

待合室に戻った所でヴィータちゃんからはやてちゃんに連絡が入る。

『はやて、なんかやベーよ。』その一言から始まる報告は確かに今回の事件のきな臭さを感じさせるには充分だった。
事件の現場となったイベント会場に着いたメンバーがスタッフらに聞き込みをしたところ、二発目の狙撃ポイントと思われる公園のモニュメント付近では狙撃前後には一切人影を見なかったらしい。
加えてそのポイントをティアナが確認したところ、スナイパーが銃を構えるにはあまりにも不安定な場所であり精密射撃は至難の業だったはず。
となると犯人は幻影魔法で姿を消した上で空中に足場を生成して狙撃した可能性も出てくるが、それに関しては雫ちゃんもヴィヴィオも魔力探知をしていないことから否定された。

そしてその謎の答えのヒントになりそうな跡がモニュメントに残されていた。
それは何かの台座と思わしきモノを固定した跡。

加えてイベントスッタフらの証言によれば、ヴィータちゃん達が到着する前に来た管理局員を名乗る男達がモニュメントから大きな包みを降ろしていたとのこと。

「主はやて、これは突発的な襲撃ではありません。
用意周到に練られた『恭也暗殺計画』です。」

シグナムさんの言葉が重い。
でも一体誰が・・・ここまで大掛かりで組織的な襲撃を実行したのだろう、そんな事を悶々と考えていると突如空気の異常を感知した。


「「「封鎖結界!?」」」」
《It is unfolded at a radius of 5km around here(ここを中心に半径5kmで展開されています)》

PiPiPiPi
封鎖結界が展開されてすぐに待合室のテレビに緊急速報が流れる。
『管理局より重大なお報せです、只今当地域において凶悪犯罪者が逃走中です。
遠隔地への逃亡を防ぐため封鎖結界を展開させて頂いております、また同時に対策班を投入し追跡に当たっておりますので皆さまにおかれましては屋内に避難して頂き外出を控えるようお願い致します。』

「どういう事や?そんな話、全然聞いとらへんで。」
はやてちゃんの、焦った声にかぶるようにナカジマ三佐からの通信が入る。

「八神、まずいぞ。武装した得体の知れねえ連中がそっちに向ってる。」

《ずるい》 [リリカルなのはss 外伝]

春には海鳴を離れてミッドに居を構える予定をしていたある冬の日。

私達魔道士3人組も参加予定だった大規模掃討作戦の任務が急遽キャンセルになったため、
放課後アリサの家で卒業旅行の計画を話し合うことになった。

なのはが資料を集めてくれていたので、着替えがてら資料を取りに高町家に寄ってからアリサの家に行くことにした。
ちなみにすずかとはやてはアリサと一緒に一足先にアリサの家に向かっている。





「すぐ、着替えてくるからリビングで待っててくれる。」

なのはに促され、リビングのドアを開けると点けっぱなしのテレビとソファ越しに黒い頭が見えた。

「お邪魔しています、恭也さん。」

いつもなら返答があるのだが画面に集中しているのか、何もリアクションがない。
邪魔をしないように静かにソファの前に回り込み、すごく珍しい光景を目にする。

そう、ソファに背を預け静かに寝息を立てている姿を。
気配に極めて敏感な人だから本来なら私達が家に近づいた時点で気付いて、出迎えてくれたはずだしあまつさえ他者の接近を無防備に許すことなどあり得ないはずなのに・・・。


改めて膝を抱えるようにしゃがんで、下から覗きこむ。


閉じられた瞳、高い鼻、引き結ばれた薄い唇。
・・・その寝顔は穏やかで、今までに見たことのないその無垢な表情に心臓が高鳴る

(・・・ズルイです)

(私はこんなにドキドキしてるのに)

(あなたはそんなに気持ち良さそうに眠っているなんて)

(だから、お仕置きしちゃいます)


彼が姉のような存在と言う女性が、訪ねて来た時親愛の情を込めてする挨拶。
彼はいつも照れくさそうにそれでいてどこか嬉しそうに受け入れていた。


カーペットに膝立ちして唇の高さを合わせ、起こさないように慎重に距離を詰める。
あと10センチ、あと3センチ、あと・・・





真っ赤に頬を染めて、リビングを出て後ろ手でドアを閉めたところで私服に着替えたなのはが2階から降りてきた。


「ごめんね、フェイトちゃん。待たせちゃったかな。」

「ううん、そんなことないよ。」

幾分、どもりながら返事をする私をなのはが訝しげに見つめ小首をかしげる。

「どうかした?フェイトちゃん、顔赤いみたいだけど。」

「何でもない、何でもないよ」と繰り返し「それより早く行かないとアリサ達が待ってるよ」と無理やりなのはを外に連れ出す。



アリサの家に向かう途中気になったことをなのはに尋ねてみる。

「う~ん、お兄ちゃんの寝顔、そういえば見たことないかな。
 だってほら、誰かが近づくとすぐ起きちゃうし・・・」

やっぱりそうなんだ、でもだったらさっきは何で。

「でも前にフィアッセさんが教えてくれたんだけど、一度だけ難しい護衛の仕事が終わって帰宅した後縁側で座りながら寝てたことがあったんだって。
『すっごく、可愛かったよ~』ってみんなに自慢してたんだ。」

57章 抹消4 [リリカルなのはss]

ヴィヴィオからの一報を受けて、私達は演習を中断し行動を開始する。

私、フェイトちゃん、はやてちゃんの隊長陣とシャマル先生にザフィーラはお兄ちゃんが緊急搬送された総合病院に向う。
ヴィータちゃん、シグナムさん、ティアナ、スバルの4人は108の隊員数名と共に襲撃現場に向ってもらった。
ギンガとチンク達はナカジマ三佐の指揮の元、緊急配備の応援に回ってもらう。

私達が病院に着くと既に緊急手術が始まっており、看護士さんの話によるとかなり危険な状態とのことだった。
シャマル先生が事情を説明し、手術に加わるためオペ室に入る。
それを見届けてから、私達は現場にいた当事者達から事情を聴くべくオペ室近くの待合室に向う。

部屋には憔悴しきった様子のクレアさんと、真っ赤に泣き腫らしたヴィヴィオ、そして必死に何かに耐えている雫ちゃんがいた。

「!! ごめんなさい、私が恭也さんを誘ったりしなければこんなことにはならなかったんです。」

私の姿を認めるなり、立ち上がって頭が足に付きそうな勢いで腰を曲げ泣きながら謝るクレアさん。

「頭を上げて下さい、クレアさん。
悪いのは犯人であって、あなたじゃないです。」

「で、でも・・・」
「大丈夫です、兄は頑丈ですから・・・このくらいのかすり傷なら明日には走りまわってますよ。」

できるだけ傷付けないように優しく諭し、病院の仮眠室を借りて少し休むように勧める。


ヴィヴィオにも一緒に休んでくるように云いつけ、二人が部屋を出たところで雫ちゃんから襲撃時の様子を詳しく聞いた。
その話で分かった事は一発目の弾丸は一般人であるクレアさんに向けて殺気を帯びた状態で飛来、それと時をほぼ同じくして全くの別方向から無気配の二発目がちょうどお兄ちゃんが守る為に飛び込んだ位置に着弾したという事。
その着弾後、殺気は消え犯人の足取りを追う事はできず遠方からの狙撃の為、特徴を捉える事も不可能だったという事実。


明らかにお兄ちゃんを狙い、その為に何の罪もない一般人を囮に使った逃走中の犯人に強い憤りを感じていると廊下の方が何やら騒がしくなる。

何事かと外に出てみれば、一人の女性の看護士さんと二人の管理局の制服を着た男が揉めていた。

「どうしたんですか?」

私が看護士さんに尋ねると、彼女はほっとした様子で事情を説明してくれた。
なんでも彼らが先の狙撃事件に関してお兄ちゃんに確認したい事があると言って、無理矢理オペ室に入ろうとしたらしい。

「どういう事ですか?
今、話を聞けるような状態でないことは誰の目にも明らかですよ。
あなた方の所属は?これ以上、無茶をするなら正式に抗議させてもらいますよ。」

こちらの抗議に対して、何やら言いかけた男にもう片方の人物が何やら耳打ちし二人揃ってその場を離れる。

57章 抹消3 [リリカルなのはss]

特設レストランに向かうお父様と並んで前を歩くクレアさんの足取りは軽やかだ。
私は終始笑顔のヴィヴィオの手を引きながら、二人の少し後ろを歩いている。
今回のイベント会場では即売会も開かれており、二人の手には先程購入したフライパン入りのビニール袋が握られている。
このフライパン、なんでも"家庭でもプロの焼き加減が再現できる"との触れ込みで『まほうのフライパン』と呼ばれ入手困難のアイテムだそうだ。

前にその話を聞いたなのはさんがお父様に『お姉ちゃんにプレゼントしてあげた方がいいのかな?』と相談したところ、『やめとけ、あいつは焼き加減以前の問題だ。』と言われ乾いた笑いを浮かべていたのは記憶に新しい。
ちなみにお父様は、我が家用となのはさん達用に二つ購入していた。


特設レストランの入り口にはゲートが設けられ、係員に入場チケットを見せた上で入る仕組みになっており、チケットを持っているクレアさんが一足先にゲートに向う。
そこで私は異質な気配を感じる、それは和やかなイベント会場に似つかわしくない"殺気"。
戦闘者としては未熟な私ですら感じ取れる程の濃密なその気配はゲート正面奥の方から発せられているようだった。

同じくその気配を正確に感じ取っていたお父様が、顔だけを後ろに向けながら私に向って声には出さず小さく唇を動かす。
その意図を正確に理解し、小さく頷く。
お父様が私に託したのは【万が一の際、ヴィヴィオを守ること】
というのも狙われる可能性があるとすれば多方面に恨みを買っているお父様か、聖王としてのヴィヴィオが高く実際に襲撃を受けた際、お父様一人でクレアさんとヴィヴィオの二人を同時に守るのは極めて難しいことが予測される故の頼みだった。

お父様に頼られた事が純粋に嬉しくて、思わず握る手に力が入りヴィヴィオをびっくりさせてしまう。


クレアさんがゲートに着いて係員にチケットを提示しようとした瞬間、前方の殺気が爆発する。

「雫!!」

鋭い叫びと共にお父様が神速の領域に入り、ゲートにいたクレアさんの右肩に左手を掛け強引に左斜め後ろに引き前方からの射線から外す。
そして自らは、後方に被害を及ぼさない為に手に持ったフライパンでその脅威を受け止める。


((BAAN))


緊急でバリアジャケットを装着し、ヴィヴィオの前に出て全力でシールドをシールドを展開した私の耳に遅れて聞こえてきた発生源の異なる2発の銃声。

("2"発? 1発目は殺気の発生源の前方から、その脅威はお父様によって無事取り除かれた・・・では2発目は・・・)

そう思って前方を見ればその答えがそこにあった。
突然のことで尻もちをついてしまったクレアさんの横で、背中から血を流し片膝をついた後そのまま前のめりでゆっくりと倒れるお父様。



一瞬の静寂の後、パニックになるイベント会場。
ゲート周辺も逃げ惑う人で大混乱になる。

私はヴィヴィオの手を引いた状態でお父様に駆け寄り、クレアさんも含めた全方位にバリアを張る。

「クソ油断した、どうやら俺が狙いだったらしい。」
「お父様、喋らないで下さい。すぐに救急車を呼びます。」

「クレアさんッ、至急救急車を呼んでください。
ヴィヴィオ、108部隊に連絡して、なのはさん達がいるはずよ。」

目の前で起きた惨事に動揺する二人を叱咤し、救急車の手配となのはさん達への連絡を頼む。
背中の傷口にハンカチを当てるが溢れ出す血液で一瞬にして真っ赤に染まり、止血の役目を果たせない。

57章 抹消2 [リリカルなのはss]

その日、非番だった私は同じく休みだったお兄ちゃんを誘って近所のなじみの洋食屋さんにランチに行った。
注文して出来上がるのを席で待っていると、ウェイトレスのクレアさんが遠慮がちに私達に話し掛けてきた。

話の内容としてはミッド南部エルセアの地理に詳しいかどうかというものだった。
なんでも今週末の土曜日にエルセアの市民公園で調理器具の見本市が開かれるらしく、そのイベントの入場チケットをお客さんから貰ったので行ってみようと思うが地理に詳しくなく行きつけるかどうか不安だという。



「その公園なら、分かりますよ。
前にその近くに駐屯する部隊にお世話になっていましたから。
でもあの公園は初めてだと、少し分かりにくいかも知れませんね。」

お兄ちゃんのその答えに、彼女の顔が少し曇る。

「そうですか…
情報端末で調べてみても駅からのアクセスが分かりにくかったので少し不安です。」

「・・・もしよろしければ、当日会場までご案内しましょうか?」

不安げな様子を見せる女性にお兄ちゃんが黙っているわけもなく、同行を買って出る。

「え、そんな悪いですよ。
それに、お仕事があるんじゃ・・・」

「別に構いませんよ、その日は特に予定も入っていませんから。」

「で、でしたら、交通費は私が出します。」

「お気遣い頂くなくても結構ですよ、どのみち久しぶりに雫も連れて先の部隊の方に顔を出すつもりでしたので。」

「あ、あの、そういうことでしたらお言葉に甘えさせて頂きます。
それで、もしよろしければ恭也さんも雫ちゃんと一緒にイベント会場に来ませんか?」

恐縮しきりのクレアさんだったけど、その提案は素直に嬉しかったのか最終的にはお願いすることにしたようだ。
加えてお兄ちゃん親子をイベントに誘っていた。
彼女の話によると貰ったチケットは一枚で4人まで有効で、会場内の特設屋外レストランの食事券付きらしい。



その日の夜、その事を家で話すとそれぞれ違った反応が返って来た。
「いいな~、ヴィヴィオも行ってみたいな~。」
「クッ、可愛い顔してやることが意外とあざといんだね、彼女。」

フェイトちゃんが微妙に黒くなってるような気がしたけど気にせず、ヴィヴィオには当事者の二人に聞いてOKだったら行ってもいいよと答えておく。

翌日、どこから話を聞きつけたのかはやてちゃんが『そんな面白いイベント見逃すわけにいかんやろ』と、今週末の土曜日に陸士108部隊の演習をセッティング。
医療担当のシャマルさんを含めた、特捜課のメンバー総出でエルセアに行くことになった。

57章 抹消1 [リリカルなのはss]

私は今、ミッド西部のエルセア地方にある総合病院の屋上にいる。
地表の各所で先程から激しい衝撃音を伴った閃光が幾度となく走る。

『いいかお前ら、だれ一人として死ぬんじゃねえぞッ!! 一人でも欠ければ、旦那の今までの生き方を否定することになるんだからな。』

「「「応!!」」」「「「了解!!」」」「りょーかい」「「「ハイッ」」」

レイジングハートを介してみんなの声が聞こえる。

(お兄ちゃん、みんなの声聞こえてる?
みんな、お兄ちゃんの為に戦ってくれてるんだよ。聞こえてたら、早く目を覚ましてよ。)

階下の手術台に眠る大切な人に訴える。


「そろそろ私達も行こうか、レイジングハート・・・」
涙を拭って相棒に声を掛ける。

《Yes,my master.》
《Standby, ready.》

《「Set up.」》



お兄ちゃんが訪れたイベント会場で何者かに狙撃され、意識不明の重体でこの病院に運び込まれるに至った発端は4日前のランチだった。

完全外伝 『翠屋』にて3 [リリカルなのはss 外伝]

バレンタインまであと1ヶ月ほどといったところで、忍ちゃんの提案を受けてお店で流すCMを撮影することになった。

早速機材を用意して、翠屋の休憩室を即席のスタジオに作り変える。
その後アルバイトの子達や家の子達に協力してもらって撮影にとりかかるも、みんな緊張してなかなかうまくしゃべれないようだ。


『空気に向ってあのセリフは流石に恥ずかしい』との声を受け、ダミー人形役を連れてくる。
これが効果てき面、みんなの恥じらいながらの告白がより臨場感を生んでくれた。

忍ちゃんに至っては『恭也、大好き。これ、あげる。』と名前を呼んで、あの子から『俺の名前を言ってどうする、CMにならんだろ。』と突っ込まれ、『だって、呼びかけがないと言いにくいんだもんこのセリフ。それに頭の部分はカットすれば問題ないわよ。』と答えていた。

彼女の真っ赤な顔を見ればそれが照れ隠しだって誰だってわかりそうなものなのに、その答えに半ば納得して苦笑いを浮かべる我が息子。
まぁなのはも『お兄ちゃん、大好き ♪ これ、あげるね。』と一部の男性陣が喜びそうなセリフでまとめていたんだけど。

その後もお店に来てくれた制服姿のフェイトちゃんや、白衣のフィリス先生(リスティさんの協力の元、恭也に病院で撮影させて来た)の告白シーンを撮り溜めて1本のCMにまとめ店内のバレンタインコーナーで放映したところ大反響。
中にはこの『CMのディスクを売ってくれませんか』という男性客もおり、自分用にチョコ菓子を買って帰る方も多かった。
クロノ君、ユーノ君に至っては見た瞬間固まって、数分後 我を取り戻した後でダース単位で買っていくあり様。
そして遂には大手菓子メーカーから破格の提示で版権を譲って欲しいとの申し出があったが、流石にそれはお断りした。

関連商品の売り上げも例年を遙かに凌ぐ勢いで伸びており、この計画は一方では大成功だったがある意味では成果を上げられなかった。


それは…

「恭也、たくさんの女の子から告白された感想は?」

「??何を言ってる、別に彼女達は俺に対して言ってたわけじゃないだろ。」

どこまでも鈍い我が息子に溜息が出るが、続いて出た呟きに一筋の光を見た。

「まぁ、嘘と分かっていても『好き』と言われて嫌な気はしなかったのは事実だがな。」

完全外伝 『翠屋』にて2 [リリカルなのはss 外伝]

「フェイトちゃん、お待たせ~」

しばらくして戻って来た桃子さんは、なぜか恭也さんを連れて来ていた。
カメラの後ろに立たされて困惑気味な恭也さんをよそに桃子さんはウキウキと私に話し掛ける。

「ほら、あの子を意中の相手だと思ってやってみて頂戴♪」

( !! )
「あのなーそんなの無茶だろ、母さん。」

桃子さんの助言に驚く私と、呆れる恭也さん。

「ふん、何よ。昨日だって、なのはや忍ちゃんから告白されて鼻の下伸ばしてたくせにッ」
「人聞きの悪い事を言うな、別に俺に対してしたわけじゃないし、あいつらは呼びかけがないと言いにくいって言ってただけだろう。」

拗ねたような桃子さんの反論に憮然と返す恭也さん。
そうなんだ、忍さんも告白したんだ…じゃあ私だって頑張らなきゃだよね。

決意を新たに、2回目の撮影に挑む。

「3・2・1・キュー」

「あ、あなたが…そ、その しゅ しゅきです。」

(ぅ~噛んじゃった~(///))

脇では桃子さんが口元を押さえながら肩を震わせている。
撮影を止めて、私の所まで来てくれた恭也さんが真っ赤になって俯いている私の頭を優しく撫でてくれる。
私が顔を上げると、未だに肩を震わせている桃子さんをチラリと睨みつけてから私に視線を戻し諭すように話しかけてくれる。

「フェイト、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。
俺がフェイトの好きな人ってわけじゃないんだから、予行練習だとでも思って気軽すればいいい。
もっとも告白なんぞをそうそう気軽にできるものじゃないかも知れないが、どんなにつたなくても気持ちの篭もった言葉は必ず相手に伝わるものだから。」

頷く私に、恭也さんがにっこり笑って元の場所に戻る。
そして3回目の撮影。

「さん・に・いち・きゅ~」
若干声が震えながらのキューサインで撮影がスタート。


ハート型の包みを大切に両手で胸の前に持ち、カメラの奥にいる人を真っ直ぐ見詰める。


「あなたが、好きです。」


ありったけの想いを込めて、あなたに届けと…


「受け取って貰えますか…」





きっとあなたは分かってくれていないんですよね、私の想い。
でもいつかきっと届けたい、私のこの想いを。

完全外伝 『翠屋』にて1 [リリカルなのはss 外伝]

「3.2.1.キュー!」

「…あ…」

今、私はカメラの前で固まっている。
何とか声を出そうとするも喉がひっついたようになって言葉が出てこない。


「う~ん、やっぱりいきなりは難しいかったかしら。」

「すみません、何だか緊張しちゃって…」

苦笑を浮かべながら停止ボタンを押す店長さんに、俯きながら謝る。

「大丈夫よ、フェイトちゃん。
家の子達もみんな初めはそんな感じだったから。
やっぱり誰もいないのに話し掛けるのはやり辛いわよね。」

恐縮して縮こまる私に桃子さんは気にしなくていいと声を掛け、何か一人で納得したようで私に少し待つように告げてからお店に戻って行った。

ここは海鳴の人気洋菓子喫茶『翠屋』さんの一室、普段はスッタフさんの休憩室として使われているが今はテーブル等は片付けられ壁際に天井からブルーの布が吊るされ、そこから数メートル前に一台のビデオカメラが置かれ簡易の撮影スタジオになっていた。

なぜこんな所に私がいるのかといえば、中学の帰りになのはに誘われて立ち寄った『翠屋』さんの店内でのやりとりが原因だった。

お店に着くと相変わらず盛況のようで、学校帰りと思われる学生さんを中心にテーブル席は埋まっていたのでカウンター席に座らせてもらった。
のんびりくつろげるテーブル席も嫌いじゃないけど、実は私はカウンター席の方がお気に入りだったりする。

「いらっしゃい、フェイト。お帰り、なのは。」

だって、間近であの人を見れるから。

「こんにちは、恭也さん。」
「うん、ただいま、お兄ちゃん。」

オーダーしたミルクティーを貰いながら、なのはと談笑していると厨房からひょっこり顔を出した桃子さんと目が合ったので会釈をする。
すると向日葵のような笑顔を浮かべながら、こちらにやってきて私に話し掛ける。

「いらっしゃいフェイトちゃん、ゆっくりしていってね。」
「はい、ありがとうございます。」

「あ、そうそう、フェイトちゃんにお願いしたい事があるんだけどいいかしら?」
「はい、何でしょうか?」

「えっとね、今店内で流すCMを自前で撮影してるんだけどそれに出てくれないかしら。
もちろん、出演料も出すわ。」
「私にできる事なら協力させて頂きますけど、本当に私なんかでいいんですか?」

「もちろんよ、フェイトちゃんみたいな可愛い子が出てくれるなら大成功間違いなしだわ。」
「あ、ありがとうございます。あ、それから出演料は結構です、桃子さんにはいつもお世話になっていますから。」
「ふふ、ありがとう、フェイトちゃん。
じゃあお茶が終わったら声を掛けてくれるかしら、お願いね。」

それだけ言い残して、再度厨房に消える桃子さん。
そんなやり取りを見ていた恭也さんが私に声を掛けてくれた。

「悪かったな、フェイト。母さんが変な事を頼んで、嫌だったら断ってくれてもいいんだぞ。」
「大丈夫ですよ、別にTVCMっていうわけじゃないですし、桃子さんのお願いですから無碍にはできません。」
「そうか、じゃあよろしくな。」



そんなこんなでお茶の後連れて来られた簡易スタジオで、何事かが書かれたA4用紙と綺麗にラッピングされたハート型の包みを渡された。
用紙には短い台詞が書かれており、どうやらこのセリフをカメラの前で告げればいいらしい。

「セリフとか動きはアレンジしてもらっても構わないからね、思い通りにやってね。」

こうして、冒頭のシーンに戻ることになる。

56.5章 熱愛報道 [リリカルなのはss]

「管理局の"顔"だっていう自覚あるん?なのはちゃん。」
「はぃ、一応それなりには・・・」

私は今、浮かれ女に問責を行っている。
というのも先程管理局広報を通して行われた、公開記者会見の内容があまりにも世間の関心を集めてしまうような回答だったからだ。

そもそも記者会見に至った理由はあるゴシップ紙に掲載された記事が原因だった。
タイトルはズバリ『エースオブエース、お忍び不倫旅行』、管理局のアイドル高町なのは三等空佐が妻子持ちの男性とお泊り旅行をしていたという内容だった。

本来であれば無視すればいいレベルの内容ではあったが、局のお偉方は"不倫"ということでのイメージダウンを気にして釈明の記者会見を開くことにし、それが先程プレスルームで開かれたのだ。

その際の質疑応答を抜粋してみる。


-不倫お泊まり旅行との報道がありましたが?

『それは明確に否定します。相手の方にお子さんはいらっしゃいますが結婚はされていませんし、外泊もしていません。』


-お相手は、管理局の方ですか?

『いいえ、一般の方です。ですから、そちらへの取材はご遠慮願います。』


-今回の旅行では、相手のお子さんも同伴されたそうですが?

『はい、家族ぐるみで親しくさせて頂いています。』


-最後に、三佐にとって相手の方はどういった存在なんでしょうか?

『そうですね、いつも私を守ってくれて支えてくれる大切な男性(ヒト)ですね。』


正直、これだけ聞いていると熱愛発覚のアイドルが"大事な時期なので優しく見守ってね"とお願いしてるみたいだ。
確かに嘘は言ってない…だがしかしッ、

「最初っから"お兄ちゃん"ですッて言えば済んだ話やんけ!!」

「え~でも、そんなこと言ったらみんなにお兄ちゃんにべったりのブラコン娘だと思われちゃうよ。」


《事実やろ、それ》と浮かれポンチな返答をするなのはちゃんに心の中で突っこむ。
でもまぁこの分だとマスコミも真実に辿り着く事なく、且つ恭也さんの存在を突きとめることもできずにほとぼりが冷めていくんやろう。
後一ヶ月もすれば、こんな見出しが躍るんやろうな。

『悪魔はやっぱり怖かった!? エースオブエースまた男に逃げられる!! 』


「…はやてちゃん~、"また"ってどういうことかな?少し、お話聞かせてもらえるかな?」

思わず、口走ってもうた~ (汗)。

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