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プロローグ [リリカルなのはss]

その日 時空管理局の主要部署のみに緊急伝達がなされた。



-最重要指名手配犯確保指令-
発生日時:X月X日
発生場所:市内民間研究所(xxxxxxxxx)
事件内容:研究所所員 5名が胸を鋭利な刃物で刺され死亡
       事務職女性職員 1名が同研究所より拉致され現在も行方不明
       襲撃犯は単独犯とみられ、現在も逃走中
指令内容:容疑者を発見しだい、確保
       尚、その際被害女性が同伴していた場合被害者の安全確保を最優先すること



指令に添付された資料に事件の概要が記載されていた。

昨夜、件の研究所から緊急通報が管理局に入り、たまたま任務帰還中で近くにいた本局特務機動隊の隊員が駆けつけたところ、女性一人を抱えた黒尽くめの男と遭遇。そのまま戦闘に移行、奮戦もむなしく取り逃がす。

応援の隊員が程なく到着し、改めて研究所内に入ると研究室内が荒らされそこに所員5名が倒れていた。
胸に刺し傷があり、既に全員息絶えていた。

隊員の目撃証言と、遺体の傷跡等から推測される凶器等から総合的に分析し容疑者を特定。



最重要指名手配犯:『不破恭也』

留意事項:尚、この情報を口外することを禁じる。



発端 [リリカルなのはss]

「なんで、お兄ちゃんがここにいるの?」

一人の若い女魔導師が呟く。

彼女の名前は『高町なのは』三等空佐、JS事件解決の最大の功労者の一人であり。最近新たに創設された、『時空管理局特捜課』の部隊長の一人である。
現在彼女は、チームの部下たる『ティアナ・ランスター』、『スバル・ナカジマ』両一等陸士と共に、昨夜発生した研究所所員集団殺害及び職員誘拐事件の容疑者が発見された現場に向かっていた。



発見現場は表通りから一本中に入った路地で、他部署の武装隊員との戦闘が行われていた。

容疑者たる全身黒尽くめの男は、被害者と思われる女性を後ろのビルの壁にもたれかけさせ、その前で迎撃を行っている。
被害者に特に外傷はないようであるが、動かないところを見るとどうやら気を失っているようである。

対して攻め手側は既に三人ほどが倒され、地面に横たわっていた。
後ろに保護対象者がいるので、大きな魔法が撃てないようである。
そこで、彼らは一人が前面から接近戦を仕掛けその隙に脇から保護対象者を連れ出そうと意図したが、行動を起こす直前に意図を察知され、前面の隊員が突然の飛来物にあせってシールドを張る間に横合いいから侵入していた武装隊員はみぞおちに膝蹴りを喰らい落ちた。

最後の一人になった武装隊員は、デバイスから射撃魔法を撃ち出す。
只、誤射だったのかスフィアの向かう先は容疑者である男ではなく、いまだ目を覚まさない女性の方だった。

「チッ」

男は小さく舌打ちすると女性とスフィアの間に自分の体を割り込ませる。
次の瞬間、男の右肩をスフィアが貫通した。



「非殺傷設定じゃない!?」
一連の光景を後ろで見ていたティアナが呟く。

現在管理局では魔法使用時原則『非殺傷設定』を義務付けている。
これは凶悪犯逮捕時も適用されるものである。
ましてや周りに民間人が多数いる状況、そして何よりも後ろに保護対象者がいる状況で『非殺傷』を解除することは非常識なのである。


そのことに対し彼女の部隊長たるなのはが武装隊員に抗議するより前に、突っ込んできた男が隊員の意識を刈り取る。

その時、彼女ははっきりと男の顔を確認した。

「・・・お兄ちゃん!?」

小太刀を抜刀し油断なく構える男は間違いなく彼女の実の兄『高町恭也』その人だった。

「な、なんで・・・?」

「・・・・・・」

「答えてよっ!!」

「時間がない、聞きたければ俺を倒して見せろ。」

「・・・クッ、スバルっ接近戦で牽制、ティアナは横を抜けて被害者の確保、その後安全圏まで移動させて。私が二人の援護をする。行って!!」

なのはの指示に二人が駆け出す、統制の取れた見事な連携である。
恭也は横を駆けるティアナに視線だけ送り、特に牽制の動きもしない。
視線が逸れたことを好機と捉え、スバルがマッハキャリバーで加速して恭也に突っ込む。

「いい踏み込みだ、スピードは申し分ない。だが、いかんせん素直すぎる。」
視線を逸らしたまま半身になり、伸ばされたスバルの腕を取って背負い投げる。

「カハッ」
バリアジャケット越しとはいえ、アスファルトに叩きつけられ一瞬息が詰まる。

直後、援護の誘導魔法アクセルシューターが殺到したため、恭也は包囲を避けるべくスバルから離れる。

スバルがよろよろと立ち上がり、仕切り直しと思った瞬間。

三人は恭也の姿を見失う、再びその姿を確認した時はスバルが膝から崩れ落ちるところだった。

「・・・神速・・・」

「ああ」

なのはの呟きに、眼前に迫り一振りの小太刀を振り上げた恭也が答える。
アクセルシューターのコントロールを解除し、シールドを張る。

上段からの振り下ろしを防いでいる時に、右に違和感を覚えとっさにシールドを張る。
遅れて、二刀目の斬撃が来た。

「見事、ならこれはどうだ?」

今度は、左から蹴りが来た。

《protection》
レイジングハートがシールドを展開する

ゴッ

蹴りそのものはシールドに止められているはずなのに、ダメージが左脇腹に徹り集中が途切れ吹き飛ばされる。

現状をいち早く確認する。

既にティアナは、被害者を確保し安全圏まで下がって護衛してくれている。
ならば、これ以上地上にとどまる必要はない。地上は彼のテリトリーなのだから。

そう判断して、アクセルフィンを展開して上空に逃れる。



「どうした、逃げてばかりでは俺を倒すことはできないぞ。」

「そんな、私は戦いたくないのに・・・」

「お前の覚悟は・・・、力はそんなものだったのか?」

「違う、私の力はみんなの守るためにある。例えお兄ちゃんでも負けないっ!!」

「強くなったな、なのは。」
兄は小さく笑みを浮かべる、彼をよく知る人でもない限り分からないものであったが。
「お前はそれでいい、信じた道を最後までまっすぐ歩め決してあきらめることなく。」

「バインド発動」
なのはも只上空に退避したわけでなく、対話している間に罠を仕掛けていた。
兄は戦闘における勘が異様に鋭いので直接のバインド攻撃はおそらく察知されて、よけられると考えたのである。ならばと彼を中心に円形に設置型バインドを仕掛け、回避先で拘束しようとした。そして、全ての準備が整ったところで直接のバインド攻撃を仕掛ける。

この攻撃を避けるには、魔法の使えない恭也は水平方向に逃げるしかないはずであり。それはつまり、この戦闘の終わりを意味していた。

彼が魔法を使えないのであれば・・・。





「う、うそっ」

「戦いにおいて思い込みは命取りになるぞ、なのは。」

そう言ってから彼は下を見やる、視線の先にはティアナと被害女性が見えた。



確かに彼は、空に浮いていた。



戦闘中に対峙している相手から、視線を逸らすなどもっともやってはいけない行為だった。
相手につられて注意を逸らした愚か者にティアナからの警告が飛ぶ。

「なのはさんっ!!」

気付いた時には後ろから、抱きすくめられるようにして首筋に小太刀を突きつけられていた。

「あの子を俺の代わりに守ってやってくれ、頼んだぞ。なのは。」

「えっ、どうい「少し眠ってろ」ぅ・・・」

首筋に軽い衝撃を受け薄れいく意識の中、兄の辛そうな謝罪の言葉が聞こえたような気がした。

ティアナ [リリカルなのはss]

あたしは戦闘が始まってすぐ、なのはさんの指示通り男の横を駆け抜け被害者の下へ向かった。
目的地までたどりついて、後ろを振り返ればスバルが投げられた後だった。
援護射撃をしようかと思ったが、なのはさんの援護が間に合ったのであちらは二人に任せ被害者を安全圏に連れ出すことを優先した。

女性を肩に担ぎ上げたところで、男を見失った。
男を確認した時には、スバルが膝から崩れ落ちていくところだった。幸い、致命傷は負ってないようでありそれだけが救いであった。
あたしは、なのはさんの援護と戦闘の邪魔にならないように足早に安全圏に退避する。

安全圏と思われる場所まで退避して、そこで見た光景は信じられないものだった。
いくらリミッター制限を掛けられているとはいえあの『エースオブエース』が一方的に攻撃されているなど・・・。

呆然とその戦いを見ていると、ふと視線を感じその元を追うと男となのはさんのものだった。

次の瞬間、再度男の姿が掻き消えたことに気付いたあたしはなのはさんに警告を飛ばす。

「なのはさんっ!!」

既に遅かった。
男はなのはさんの後ろにまわり抱きすくめるようにして、耳元で何か囁いている。

見ようによっては恋人達の愛の囁きにも見えなくもないかもしれない、首筋に刃物が突きつけられていなければだが。

首筋に手刀が当てられ、なのはさんの意識が落ちる。
ぐったりとした彼女を男は大事そうに抱え、地上に階段を下りるように下りてくる。

攻撃しようにも、なのはさんが人質にとられているような状態でクロスミラージュを構え牽制することしかできない。

そんなこちらを見透かすように、男はなのはさんをビルの壁にもたれかかれさせるように置くとこちらを見向きもせず反対方向に走って逃げていった。

被害女性を置いて追撃をかけるわけにもいかず、悔しさに唇を噛みながら捜査本部に被害者の確保と容疑者の逃走の連絡を入れる。

本部への連絡が終わる頃、スバルとなのはさんが目を覚ます。
私達より前に来ていた、他部署の武装隊員は思った以上にダメージが大きかったのかいまだに気絶したままだった。

あとから応援に来た管理局員に彼らと現場の後処理を任せ、保護した被害女性を本局のメディカルルームに運んだ。

通常であればメディカルチェックを医務官に依頼し後は今回の件の捜査担当部署たる特務機動隊に引継ぎをすれば済むことなのだが、なのはさんは思うところがあったらしくメディカルチェックをシャマル先生に依頼しスバルとあたしにそれぞれ指示を出して特捜課のオフィスに戻っていった。

そういえば、現場で最初に交戦していた武装隊員の部隊章も特務機動隊だった気がする。

襲撃 [リリカルなのはss]

シャマル先生に被害者を預けスバルとティアナにそれぞれ指示を出した後、私は特捜課のオフィスに戻った。

『時空管理局特捜課』この課は試験展開されていた機動6課解散後、一年弱たった今月発足した出来立てほやほやの部隊である。
職務はいわゆる便利屋であり、捜査協力、災害救助、ロストロギア探索と何でもありだった。
メンバーは旧6課の隊長陣、スターズの三人、ライトニングからシグナムさん、ロングアーチからリイン、ザフィーラさん,プラス アギトの10名(?)体制だった。

オフィス到着後、課長のはやてちゃんに先程あった事のあらましを伝え懸念事項と対応策を提案する。
それを受けて、フェイトちゃんとシグナムさん、ヴィータちゃんがそれぞれ行動を開始する。

みんなが行動を開始したのを確認した後、端末を立ち上げ管理局員のデータベースにアクセスする。

調べる人物は『不破恭也』

Hitした情報を閲覧する

嘱託魔導師として登録されたのが今から8年前、魔導師ランク F
 ・
 ・
 ・
XX年XX月 作戦行動において過剰な制圧行為があったとして、禁固1ヵ月及び嘱託魔導師の資格
        剥奪
        作戦担当部隊:武装9課

「武装9課・・・。」

「なんや、またえらい物騒な名前がでてきたな。」
一緒に端末を見ていた、はやてちゃんが嫌そうに言う。

というのもこの『武装9課』、一応本局所属の組織犯罪専門の部隊だがあまりいい噂がないのだ。

『曰く、事件解決時容疑者死亡のケースが圧倒的に多い。』
『曰く、殉職者及び退職者の比率が他の課に比べ突出している。部隊構成員は他の課と比べて遜色はないにも関わらず。』
『曰く、管理局上層部の弱みを握っているため上層部もうかつに手が出せない。』

もっとも、二つ目に関してはここ数年目に見えて改善しているようではあるが。

何やらすごく雲行きが怪しくなってきたことに、思わず二人してため息を吐く。



「お二人とも、ため息を吐くと幸せが逃げちゃいますよー」



そこには、先程被害女性の警備を指示したはずのスバルがいた。

「な、なんでスバルがここにいるのっ?」

「えっ、なんでって、なのはさんが呼んだんじゃないんですか?シャマルさんに呼ばれて、医務局の個室の前で警備してたら他の課の武装局員が来て、なのはさんが極秘事項の伝達があるから至急オフィスまで来てくれって言ってたと聞いたんですが・・・違いました?」

「そんなこと一言も言ってないよ、私。」


バンッ

「っ、やられたっ」
はやてちゃんがデスクを叩いて立ち上がる。

「!!!」
私もはやてちゃんの言葉の意味に気付いて、オフィスを飛び出し走って医務局に向かう。

医務局内では、走らないでくださいと言われてしまいそうだが今はそれどころではない。
一刻も早く行かないと、彼女が危険だ。

後ろを付いてくるスバルが理由が分からず、はやてちゃんに尋ねる。
「何がどうなってるんですか?」

「あの子が、襲われる可能性があるんよ。」

「そんな、まさか・・・だって交代に来たのは管理局の制服を着た職員だったんですよ。それに、個室には、カードキーとパスワード入力しないと入れないですし。」

「どうも今回の事件かなり怪しいんよ。保護した時の経緯も、事件そのものも。それに、変身魔法を使えば容姿は何とでもなるし、基本隠匿してたはずの個室を特定してきた時点でパスワードも解析済みと見たほうがええで。」

「・・・・・・・」

ことの重大さに気付いたスバルが真っ青になる。

件の個室がある廊下に着く、個室から閃光が溢れ一つの物体が廊下に飛び出し反対方向に逃げていく。

「スバルッ追って!!」

スバルに後を追わせ、私とはやてちゃんは個室に駆け込む。

「大丈夫ッ?」

そこには、閃光弾にやられて目をしょぼつかせるティアナがいた。



格言 [リリカルなのはss]

あたしはなのはさんの指示に従い、本来被害女性が入院するはずだった個室に来ている。

ベットに布団を丸め人型にし、その上に布団を掛け幻影魔法で顔を再現する。
私自身は物陰に隠れ、その時を待つ。

それから、5分ほどたったところで表からスバルと誰かの話し声が聞こえてきた。

しばらくして、個室のドアが開き誰かが入ってくる。
管理局員の制服を着た人間のようだ。

その人物はベット脇に立ち、対象が眠っていることを確認すると懐からおもむろにナイフを取り出す。

そして、それを振り上げ首に突き刺した。

『!!!』

「ストラグルバインド」

ナイフが幻影を突き抜けたことに驚愕する男に、あたしがバインドを発動するのはほぼ同時だった。

バインドの魔力が男を拘束する、副次的な効果として変身魔法が解け本来の姿を現す。
出てきたのはやはり管理局の制服を着た男だった、部隊章は外され確認ができない。

後は、なのはさんに連絡して身元を調べればと思っていたところ、男がポケットから小型の物体をベットの上に放り投げる。

思わず見てしまった瞬間それは眩い光を発し、部屋を閃光で埋め尽くす。

《しまった、閃光弾!!》

まともに見てしまった私の視界は0になる、あてずっぽでクロスミラージュを構えスフィアを男のいたところに発射するも手応えがない。
バインドが引きちぎられ、ドアが開いて男が駆け出す音が聞こえた。


続いて部屋に入ってくる、足音が聞こえた。

「大丈夫ッ?」
かなりあせった様子のなのはさんの問いかけに、目をしょぼつかせながら何とか答えた。

しばらくして、スバルからなのはさんに犯人を見失ったとの報告が入った。
まあ無理もない。
館内には同じよう格好をした局員が数え切れないほど詰めているのだ、その中から後ろ姿しか見ていない人物を見つけ出せというのがどだい無茶なのである。

後は、局内に設置された防犯カメラの映像の解析とあたしが記憶している人物の特徴から犯人を割り出すしかなさそうである。

ちなみに、被害者の女性は聖王医療院に転院してもらっているそうだ。護衛として、ヴィータさんとシャマル先生が付き添っているらしい。

スバルが、個室に戻ってきて私の顔を見るなりすごく驚いていた。どうやら、スバルはなのはさんから事前に説明を受けていなかったらしい。

そのことについてかなりなのはさんにくってかかっていたが、自分だけ信用してもらえなかったという思いと、親友がおとりとして使われ結果として危険な目にあったということが大きかったようだ。

まあ、あたしのことで怒ってくれるのは嬉しいけれど、あの子も『関係者以外は部屋に立ち入らせるな』と指示されていたのに持ち場を不用意に離れるからいけないのではないかと思う。あたし自身も、今回の作戦に関してそこまで詳しく聞かされてなかったし。

「まあまあ、そのへんにしときや。なのはちゃんも謝っとるし、そもそもアンタがその場で通信入れて確認すれば済んでたかもしれへんしな。」

「・・・」

無言で何やらまだ不満げなスバルに、我らが課長は
「わたしらの国の格言にな『敵を欺くにはまず味方から』っつうのがあるんよ。」

課長それフォローになってません。


部屋の空気がよどんできたところに、シャマル先生から連絡が入る。

保護した女性が目を覚ましたそうである。

疑惑 [リリカルなのはss]

聖王医療院の当該個室に行くと、そこにはベットを挟む形でシャマルとヴィータが座っていた。
ベットの上には半身を起こしたショートカットの20前後の女性が、多少脅えながらこちらを見ていた。

彼女は視界になのはちゃんをおさめると、安堵の表情を見せる。
さすが有名人、わたしもそこそこ有名だとは思うが『エースオブエース』ほどの対外的な露出はない。

彼女が落ち着いたところを見計らって、昨晩あったことを聴取する。
ちなみにスバルとティアナの二人には個室の外で人払い兼警備をしてもらっている。




彼女は、不安げにポツリポツリと話し始める。




昨日はたまたま職場に忘れ物をして、どうしてもその日のうちに必要だったのでだめもとでとりに戻ったんです。

通常であれば既に閉まっているはずの職員用の出入り口が開いていたので、まだ誰かが残業しているのだろうと思って中に入りました。

事務所に行って用事を済ませ帰ろうとした時、奥の研究室の方から物音がしたので挨拶だけして行こうと思ってそちらに向かったらドアが開いていました。
不審に思っておそるおそる中を覗いたら管理局の制服を着た人がいて、その人の足元に白衣を着た人が倒れてたんです。
私は、びっくりして尻餅をついて慌てて逃げ出したんです。でもその時、ゴミ箱を引っ掛けちゃって静かな館内に音が響き渡って・・・、後ろから『逃がすな!!始末しろっ!!』って言う男の人達の声が聞こえたんです。

その後、背中に衝撃を受けて気を失ってしまって・・・で気付いたらここにいたんです。




彼女が嘘を吐いている様には見えなかった。それに、この話が事実なら私達に対してどこか脅えていたのにも納得がいく。

この病院は、聖王教会の管轄のため犯人が管理局内部の人間だった場合おそらくそう簡単には手出しをできないかとは思ったが、念のため今日はスバル、ティアナの二人に護衛についてもらうことにした。

本局のオフィスに戻り、アコース査察官に掛け合い彼女に証人保護プログラムを適用してもらう。
本来、担当部署たる特務機動隊にも連絡をするべきところだが不審な点があまりにも多いため機密として処理してもらった。

それらの処理一段落着いた頃に、昨晩の現場に行ってくれていたフェイトちゃんとシグナムが戻って来た。
彼女達が現場に着いて現場検証をしようとしたところ、突如現れた特務機動隊の隊員が捜査権を盾に二人を追い出したそうだ。
そのため、ろくろく確認はできなかったとの事であった。

「主、はやて。今回の容疑者の凶器は日本刀ということでしたが間違いありませんか?」

「そやで、『小太刀』いうて少し短めの奴やね。それがどないしたの?」

「いえ、それですと現場でちらりと見たデスクに付いた傷跡が説明できないのです。あの傷跡は、西洋剣のような幅広のものですから。遺体の刺し傷が確認できない以上なんとも言えませんが・・・」

わたしの質問に自分の見解を交えて答えてくれた。



ここでひとつの仮説を立ててみる

管理局内部の複数の人間が昨晩研究所に襲撃を掛け、その際に発生したイレギュラーの目撃者を殺害しようとしたが邪魔が入り目的を達成できなかった。
そこで偽装工作をし、邪魔をした人物こそがあたかも襲撃犯であるように見せかけた。

そして、捜査の一連の流れで両者を抹殺しようとした。

そう考えると全て辻褄が合うのである。
被害者の彼女を保護した際の、『非殺傷設定』の魔法の『誤射』も全て仕組まれていたと思われた。

只、今の段階では所詮状況からの推論に過ぎない。
病院襲撃犯を現場で取り押さえれなかった以上、かなりの困難が予想される。

というのも、今回この事件に絡んでいるであろう『特務機動隊』は管理局内にあっても独立権限を有する特別部隊であり、魔導師の総保有魔力量の制限も受けておらず、戦闘だけでなく各分野のエキスパートが集まった所謂特殊部隊なのである。
よって、隊員の構成データ等も局長クラスでなければ閲覧できないのである。

よほどの証拠を突きつけない限り勝ち目はなさそうである。



この辺は後でクロノ君やゲンヤさんに相談するとして、もうひとつの疑問を述べる


「でもなんで恭也さんは昨日あんなところにいたんや?」

「「「「「!!!」」」」」

そこに何か鍵があるのかも知れない、わたし達は恭也さんが最近関わっていた武装9課をた訪ねることにした。

武装9課 [リリカルなのはss]

-本局 武装9課オフィス前-

今ここには、私、フェィトちゃん、はやてちゃんの特捜課責任者三人が来ている。

実は、ここに来る前にシャマル先生から気になることを聞かされていた。

『9課の人間が医務局に、保護された女性の収容先を確認しにきた』と、もちろん開示はしていないが。
真意が分からず、何か引っかかりを覚えた。




「よう、管理局のアイドルトリオが何の用だい?」
オフィスに入るなり、声をかけてきたのは9課隊長。

ソニア提督 
30代半ばのセミロングの赤毛を後ろで無造作に束ねた、姉御肌の女性だ。

「まずはお時間をとって頂きありがとうございます。あまり、人に聞かれたくない話なので個室で聞かせていただけますか?」

はやてちゃんが代表して謝辞と依頼を告げる。

「あいよ、そっちの応接室でいいね。」
あごでしゃくって、入っていく。




席に皆が着くなり、再度はやてちゃんが質問する。

「単刀直入にお伺いします。不破恭也はこの課で何をしていたのですか?」

「何をって、仕事だよ仕事。」

「彼は、作戦行動中の制圧行為で処分を受けています。その、作戦行動について詳しく教えてもらえませんか。」

「嫌だね。」

「何でですか。」

「身内の恥をさらしたくもないし、思い出したくもない作戦だからさ。」



人を喰ったようなその返答に私は、声を荒げて問う
「あなたは、お兄ぃ…いえ私の兄に何を『させて』いたんですか!!」

「ほうアンタ・・・あいつの妹だったのか、ヤツは『不破』と名乗ってたから知らなかったな。
どうりで上が緘口令敷きたがるわけだ、元とはいえ管理局の嘱託魔導師が起こした事件に加えて、『正義』の管理局の象徴『エースオブエース』の身内が『殺人狂』とあっちゃ信用ガタ落ちだもんな~。
マスコミも喜びそうなネタだし、JS事件傷ついたところに止めを刺しかねんわな。」

「そんなッ!!兄はそんなことをする人じゃありませんッ」

「『そんなこと』ねぇ・・・あいつがやたら自慢するから、どんなできたヤツかと思えばとんだ甘ちゃんだったな。」

「っ」

「いいだろう、地獄を見る覚悟があるなら今晩の作戦について来い。そこであいつが何をしていたか教えてやる。」


地獄 [リリカルなのはss]

提督に連れられてついたところは、クラナガン郊外にある民間の研究施設。
時刻は深夜、館内の照明は落されている。

今ここにいるメンバーは、ソニア提督を含めた武装9課3名、ヴィータちゃん、ティアナ、スバル、私の計7名だった。

「突入する前に言っておく、これから施設内で我々以外に接触した場合は決して油断するな。尚戦闘になった際は原則、頭か心臓を一撃で打ち抜いて即死させろ。投降呼びかけるような無駄なことをするな。」

「なぜですか、そんな無茶な命令は聞けません!!」
ソニア提督の命令にスバルが反論する。

「命令が聞けないなら、来なくて結構。足手まといになる。我々の最終目標地点は地下2階にある研究室、到達後資料を回収し爆破する。連携の兼ね合いで、あんた達の隊は西側の階段室から侵入すること。作戦開始時刻00:10 以上。」

00:10
通用口を魔法で破壊、各隊が突入する。
突入前に決められたとおり、私たちは西側の階段室から地下に向かう。
途中ガードロボが数体現れたが、AMFは展開されていないようでさして問題にはならなかった。

00:15
目的の研究室前につくと中ではすでに戦闘が始まっているようだった。
中に入って私がすぐ目にしたものは、頭を打ちぬかれた上 ナイフのようなもので胸を突き刺された状態で横たわる死体だった、しかも子供の・・・。

思わず口元を押さえる。
何とか気を持ち直し視線を上げるとアースラの訓練室ほどの広さがある研究室の奥の方で、今まさに武装9課によってそれが再現されていた。

私達はその虐殺を止めるべく、提督たちの元へ急ぐ。

途中、物陰から男の子が飛び出してきた。
年齢的には、ヴィヴィオと同じぐらいだろうか。
スバルが駆け寄り声をかける。

「僕、危ないからお姉さんたちについて来て」

男の子に反応がないのをいぶかしんで、スバルが屈みこみ顔を覗きこむ


私がスバルの肩を掴み引き寄せるのと、ティアナのクロスミュラージュのタガーモードの魔力刃が男の子のナイフを止めるのは同時だった。
信じられないことに、男の子はスバルの顔面にナイフを突き立てようとしていたのだ。しかも何の迷いもなく。

初撃が防がれたことを確認すると、男の子はナイフを振るってティアナに襲いかかる。
魔法で身体強化しているのか、もしくはそれなりの戦闘訓練を受けているのかその年の子にしてはいい動きをしていたが、所詮は子供であり精鋭の6課出身者たるティアナにはかなわなかった。

数度の打ち合いの末、男の子のナイフが手から弾き飛ばされた。
弾き飛ばされたナイフを追って、顔をそらした男の子の頭にティアナはクロスミラージュをシューティングモードで突き付ける。

「おとなしくしな『死んで』・・さい」


ドンッ!!!


突然の爆発がティアナのいたところで起こった。


「「「ティア(ナ)-」」」

因果 [リリカルなのはss]

爆煙が晴れると、そこにはへたりこんだティアナと、血のしたたるククリナイフを持ったソニア提督がいた。
そしてその前には、肘から切り落とされた男の子の右腕と跡形もなく吹き飛んだ男の子だった肉の塊があった。

しばしの錯乱状態から覚め、それを見たティアナはこみ上げる不快感に思わず嘔吐する。
嘔吐こそしなかったものの、なのは達旧6課のメンバーも似たようなものだった。

「油断するなといったはずだ、それに躊躇せず殺せと」

確かにその通りなのである、子供だからといって警戒もせず近づき、相手の意識を刈り取るなりして戦闘不能にしたわけでもないのに投降を呼びかけた。
その結果、突き付けた腕を掴まれ自爆に巻き込まれそうになった。
そうならなかったのは、その事態に気付いたソニア提督が掴んでいた腕を切り男の子を蹴り飛ばしたからに過ぎない。



「今日はもう撤収だ。話があるなら明朝私のオフィスに来い。」




-翌朝-
本局 武装9課 オフィス

「で、何が聞きたい」
応接室にいるのは正面にソニア提督、左にはやてちゃん、右にフェィトちゃん、そして私だった。

「その前に、昨晩はありがとうございました。部下を救っていただいて感謝しています。」
特捜課 課長としてはやてちゃん、直属の上司として私がそれぞれ提督に頭を下げる。

「あそこでお前らに死なれると、後々こっちが嫌味を言われるから助けただけだ。礼を言われるほどのことではない。」
そっけなく返される。

「では、改めて質問させていただきます。
 まず、昨晩の子は何ですか?」

「アレは、我々が今追っている組織が造った人造兵器だ。」

「造った?」
男の子をアレ呼ばわりするソニアに反感を覚えながらも疑問を口にするフェイトちゃん。

「そう、あるプロジェクトの技術を使い人工生命体を造り培養液体カプセルで急速成長させた後、あらゆる状況で戦えるように各種戦闘訓練を積ませた兵器だ。そして、各個体の心臓部には半径2mは木っ端微塵に吹き飛ばせるだけの爆弾が埋め込まれている。
ちなみに、起爆は各個体の意思ひとつでできる。」

「・・・プロジェクトF」

「ご名答。そういう意味では昨日のアレは、あんたの弟だったのかもしれないね。」
ポツリとつぶやいたフェイトちゃんに、にやけながらソニア提督は告げる。


「そんな言い方しないで下さい!!フェイトちゃんは自分の意思で一生懸命生きています。あそこにいた子達と一緒にしないでっ!!」

「ほう、そうするとあんたは昨日のアレは人ではないと認めるんだ。」

「そ、そんなこと言ってません。」



重い沈黙がその場を支配する。




「私からもひとつお伺いしてもよろしいですか?」

沈黙を破ったのははやてちゃんだった。
提督が軽く頷くのを確認して発言する。

「今回の相手が最終的に自爆する可能性があったことは理解しましたが、今回の制圧方法は適切だったのでしょうか?部下の報告書を見る限り過剰制圧かと。自爆される可能性があるなら、非殺傷の方法で意識を刈り取り後に適切な場所で爆弾を取り出せばよかったのではないですか?」

「・・・・・フッハッハッハッッ」
突然笑い出した提督に私達が呆然としてしまった。

「ほんと、あんたら甘ちゃんだね。アレの爆弾は細工がしてあって遠隔操作で任意の個体を起爆できるのさ、もちろん個体の起動状態は関係ない。殺害後でも不用意に近づけばリーダーからの起爆信号で、爆発に巻き込まれる。
さらに、爆弾そのものも心臓に埋め込まれる形でつけられていて外した時点で起爆するようになってるし、よしんば起爆しなかったとしても臓器としての機能が果たせなくなってどの道死ぬのさ。」

「「「・・・・・・」」」

「まあ遠隔操作に関しては作戦時にECMをかけることによって、ある程度防止できるが完璧じゃない。
対抗手段をとられればやはり起爆されてしまう、それを防ぐには胸にある受信機を破壊するしかないのさ。」

「そ、それでも・・・」
かろうじて、声をしぼり出す。

「それでも、助けたいってか。助けてどうする、仮に連れ帰ったところで研究体として解剖されるか安全の為に爆破処理されるだけだぞ。」

「・・・ひどいです。」

「『ひどい』ね、どっちが?アレを造った奴らか、それとも助けようともせず壊すだけのあたしらか。」

「どっちもです。」

「ハンッ、優等生の回答ありがとよ。何も知らずにのうのうと生きてきた甘ちゃんに言われたところで痛くもかゆくもないわ。」

「今の発言は取り消してください!!」
フェイトちゃんが、真っ赤になって立ち上がる。

「なんで?」

「なのはは、なのははいつだって他の人の為に自分を犠牲にしてがんばっているんです。この前だって、魔法がもう使えなくなるかもしれないくらいの怪我もしたし、その前は無理して本当に死の淵をさまよって一生歩けなくなるかも知れない状態になって・・・でもそれでもあきらめなかった。」

それがどうした!!
一度や二度死に掛けた そんなもん武装局員なら当たり前だ、その程度の覚悟もないなら今すぐ部署を変わりやががれッ!!」

「私はな昨日よりひどい現場を幾度となく体験している、子供が当たり前のように売られ性のはけ口にされたり。生きるための手段として武器を取り、意味も分からず人殺しをする子達を。
なんで昨日のあれが子供だったか分かるか、培養期間の効率的な問題もあるが相手側に対する心理攻撃的なところもあるのさ。
まともな人間だったら子供だったら油断もするし、傷つけることに抵抗感を覚えるからな。」

何も言えない私達に向かって、提督は自嘲気味に笑う。

「そうだ、もう一個面白いことを教えておいてやろう。
あいつらの中にはごくまれに、爆弾が仕込まれてない奴もある。もちろんその個体には知らされてないけどな。」

「何でって?顔してやがるな。簡単なことさね、お前らみたいな甘ちゃんの『心』を壊すためさ。
考えてもごらん、殺さなければ自爆するからと思って無理矢理自分を納得させて殺したら、実は殺さなくても助けられましたなんて後で分かったらどうなる。」

「この課の人員が10名に満たない理由が分かるかい、まともな奴じゃやっていけないのさ。狂った奴だけが生き残れる。」

「ま、どの道あんた達じゃ役に立たないからこの件から手を引きな。」




「お兄ちゃんは・・・いえ兄はできたんですかこの任務を。」
しばらくの沈黙の後、私は一番気になっていたことを聞く

「ああ、もちろんさ。あんたの兄貴は誰よりもうまく、より多くこの仕事をこなしてくれたよ。ためらいなく確実に一撃で意識を刈り取り、心臓を一突きしてね。いい駒だったんだが、厄介な事件を起こしてくれたもんだ。おかげで、こちらまで疑いの目を向けられちまった。」

「・・・そうですか」

その答えを聞いた後、私達三人はオフィスを後にした。

舞台裏 [リリカルなのはss]

なのは達が去った後
応接室にひとりの女性が入ってきた

「相変わらず素直じゃないのね、あなた」

「私が素直だったら、気持ち悪い。」

女性はそれもそうねと苦笑する

「で、用件は?からかうためだけにきたわけではあるまい、レティ。」

「本丸が判明したわ。それと、彼から決行日の連絡も。」


一通りの連絡を終え、今は旧友としての話をしている。
「人にはそれぞれ役割ってものがあるだろうさ。あいつらは表で演じていればいい。裏の汚い仕事は私らだけで十分だ。」

「それにしてもあの子達にわざときつい言い方して、わざわざ嫌われるようにしなくても本当のことを話してもよかったんじゃないの。」

「それこそまさかだ、そんなことをしたら彼の今までやってきたことを全て無駄にしてしまう。
それだけはするわけにはいかない、私の我々武装9課隊員の立場と何よりも『心』を守ってくれた彼を裏切るわけにはいかない」

しばらく前に、局内の対抗勢力が制圧作戦を改謬して評議会に報告し9課を合法的に処分しようとした際、恭也が自ら申し出て課としての行動ではなく独断であるとして処分を受け、嘱託魔導師の資格を剥奪されたうえ禁錮刑を受けていた。
しかし、その後も裏でソニア、レティと共に連絡を取り研究施設を潰していた。
その流れで行った先の研究所で、口封じを行っていた本局の特務機動隊と鉢合わせになり、彼らに殺されかけていた女性職員を救出し無事撤退するも襲撃犯として追われることになってしまっている。

もともと恭也は9課の人間に彼女の保護を頼むつもりだったが、手違いで特務機動隊に発見されたため止む無くなのは達に保護を依頼したのである。結果は、かなり危ういものであったが最悪の事態には今の所陥っていない。



「そういえば、あの子は?」

「ああ、あの子なら安全の為にゲンヤのところに預けてある。
9課の天使を危険にさらすわけにはいかないからな。」

「今回の件、解決を急いだのもある意味あの子に無関係でもないんでしょ」

「まあね、あの子はホントできた子だよ。『父親の名前を汚さないように強くなるんだ』って毎日努力してる。生まれの特質上、魔導師としても戦闘員としても資質はずば抜けてるからね。」
「父親も、私もできたらこんなヤクザな仕事に就かせたくないんだが、現状だといつ管理局からスカウトという名の強制がかかる分からないし、何より本人が望むならその道を進ませてやりたいのも事実だから。」

「だからあの子の目の前にある障害物を取り除こうっていうことなのね。
ほんと、あなたたちは親バカね。いっそのこと彼と結婚して、本当の母親になったら?」

「ほっとけ、それより査察官にも宴会の連絡入れとけよ。」

「ええ」

《場所:時空管理局 本局 地下2階 特務機動隊執務室
 日時:7月7日 9時 》



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