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57章 抹消3 [リリカルなのはss]

特設レストランに向かうお父様と並んで前を歩くクレアさんの足取りは軽やかだ。
私は終始笑顔のヴィヴィオの手を引きながら、二人の少し後ろを歩いている。
今回のイベント会場では即売会も開かれており、二人の手には先程購入したフライパン入りのビニール袋が握られている。
このフライパン、なんでも"家庭でもプロの焼き加減が再現できる"との触れ込みで『まほうのフライパン』と呼ばれ入手困難のアイテムだそうだ。

前にその話を聞いたなのはさんがお父様に『お姉ちゃんにプレゼントしてあげた方がいいのかな?』と相談したところ、『やめとけ、あいつは焼き加減以前の問題だ。』と言われ乾いた笑いを浮かべていたのは記憶に新しい。
ちなみにお父様は、我が家用となのはさん達用に二つ購入していた。


特設レストランの入り口にはゲートが設けられ、係員に入場チケットを見せた上で入る仕組みになっており、チケットを持っているクレアさんが一足先にゲートに向う。
そこで私は異質な気配を感じる、それは和やかなイベント会場に似つかわしくない"殺気"。
戦闘者としては未熟な私ですら感じ取れる程の濃密なその気配はゲート正面奥の方から発せられているようだった。

同じくその気配を正確に感じ取っていたお父様が、顔だけを後ろに向けながら私に向って声には出さず小さく唇を動かす。
その意図を正確に理解し、小さく頷く。
お父様が私に託したのは【万が一の際、ヴィヴィオを守ること】
というのも狙われる可能性があるとすれば多方面に恨みを買っているお父様か、聖王としてのヴィヴィオが高く実際に襲撃を受けた際、お父様一人でクレアさんとヴィヴィオの二人を同時に守るのは極めて難しいことが予測される故の頼みだった。

お父様に頼られた事が純粋に嬉しくて、思わず握る手に力が入りヴィヴィオをびっくりさせてしまう。


クレアさんがゲートに着いて係員にチケットを提示しようとした瞬間、前方の殺気が爆発する。

「雫!!」

鋭い叫びと共にお父様が神速の領域に入り、ゲートにいたクレアさんの右肩に左手を掛け強引に左斜め後ろに引き前方からの射線から外す。
そして自らは、後方に被害を及ぼさない為に手に持ったフライパンでその脅威を受け止める。


((BAAN))


緊急でバリアジャケットを装着し、ヴィヴィオの前に出て全力でシールドをシールドを展開した私の耳に遅れて聞こえてきた発生源の異なる2発の銃声。

("2"発? 1発目は殺気の発生源の前方から、その脅威はお父様によって無事取り除かれた・・・では2発目は・・・)

そう思って前方を見ればその答えがそこにあった。
突然のことで尻もちをついてしまったクレアさんの横で、背中から血を流し片膝をついた後そのまま前のめりでゆっくりと倒れるお父様。



一瞬の静寂の後、パニックになるイベント会場。
ゲート周辺も逃げ惑う人で大混乱になる。

私はヴィヴィオの手を引いた状態でお父様に駆け寄り、クレアさんも含めた全方位にバリアを張る。

「クソ油断した、どうやら俺が狙いだったらしい。」
「お父様、喋らないで下さい。すぐに救急車を呼びます。」

「クレアさんッ、至急救急車を呼んでください。
ヴィヴィオ、108部隊に連絡して、なのはさん達がいるはずよ。」

目の前で起きた惨事に動揺する二人を叱咤し、救急車の手配となのはさん達への連絡を頼む。
背中の傷口にハンカチを当てるが溢れ出す血液で一瞬にして真っ赤に染まり、止血の役目を果たせない。
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