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生きる意志1 [リリカルなのはss 外伝]

JS事件終結後、約一年がたとうとする頃。

再び管理局を震撼させる事件が起きる。


いくつかの軌道拘置所が襲撃され、収監されていた囚人が開放されたのである。


そこに収監されていた人物は

JS事件首謀者
『ジェイル・スカリエッティ』

その配下たる、戦闘機人の二人
『ウーノ』
『クアットロ』

管理局上層部はこの事実を公表することなく、ある一人の人物に処理を命じる。

『逃亡した三名を発見し、確保せよ。』

その指令書には、注釈が付いていた。

《DEAD OR ALIVE (生死は問わず)》



アンダーグランドにもぐった彼らの行方はようとして知れず、事件解決は難航するかと思われた。
だが、逃亡者の一人の行動から事態は急転する。


第97管理外世界 ここで、一人の女性が拉致された。

女性の名は 
『アリサ・バニングス』 

今年二十歳を迎える、魔法世界とは関わりのない民間人である。
そして、JS事件解決の功労者『高町なのは』、『フェイト・T・ハラオウン』、『八神はやて』の幼少時代からの親友でもある。





目を覚ますと、そこは見知らぬ廃ビルの一室だった。
大学での講義を終え、帰宅途中何もなかったはずの空間から出てきた手に口元を押さえられた所までは覚えている。どうやら、睡眠薬を嗅がされたらしく気を失ってしまったようだ。

今は、足首と両手をそれぞれロープで縛られ床に転がされている状態だった。
時間は夜なのか、外から遠くの街明かりが差し込むだけでそこに光はほとんどない。

その状況は、昔の恐怖を思い出させるには十分だった。
小学生の頃、資産家の娘だった自分は下校途中に誘拐に遭い廃ビルに連れ込まれ、危うく乱暴されそうになったことがあったのだ。
あの忌まわしい記憶は、今尚消え去っておらず現在進行形で心を蝕む。



「あら、気が付いた?子羊さん。」

突然、闇から響いた声にビクリとしながら半身を起こし、声のした方向に顔を向ける。
そこには、私より少し若いくらいの眼鏡をかけた女の子が薄ら笑いを浮かべて立っていた。

「あなた、何者?」

「私、私は偉大なるお父様『ジェイル・スカリエッティ』の四番目の娘、そして『高町なのは』に復讐する者よ。」

「・・・なのはに『復讐』ですって・・・?」

「ええ、そうよ。あの女さえでしゃばらなければ、お父様の崇高な計画は達成されていたはずだし、私もこんな惨めな思いもしなくて済んだのよッ」
憎憎しげに呪詛の言葉を吐く。

「そのために、私を連れてきたの?」 

「そう、だからあの馬鹿女に復讐するの。とりあえずあなたの一部を切り取って、送りつけてあげるわ。もちろん、記録映像も付けてね。そして、最期まで何もできないことを嘆くといいわ。」

冗談じゃない、詳しくは知らないけどなのはに対する逆恨みでこの女は私を『殺す』と言っている。
こんな時、本当なら相手を刺激せず逆転の機会を待つべきなんだろうけど・・・性格上できなかったし、親友を馬鹿にされて黙っているほどお人よしでもない。

ふざけるんじゃないわよ!!
『なのはに邪魔された』 そんなの只の言いがかりじゃない、自分達で悪さしてそれを阻止したあの子を責めるなんてお門違いもいいところよッ。よっぽど、アンタのほうが馬鹿じゃないの。」

ああ、言ってしまった・・・
目の前の高ビー女は馬鹿にされることに慣れていないのかプルプル震えている。


グッ

いきなり、髪を掴まれた。


「いいわ、そんなに死にたいんだったら今から殺してあげる。」
女は右手でナイフを取り出し、刺し殺すべく後ろに腕を引く。


《あ~あ、短い人生だったな~。ファーストキスすらまだしてないのに・・・。》
覚悟を決めて、まぶたを閉じる。


《なのは、アンタは間違ったことしてないんだから、がんばんなさいよ・・・でも最期にあの人に会いたかったな・・・》




ンッ、キン

何かがぶつかる音がして、頬に風が当たる。不意に私の髪を掴んでいた、女の手が離れる。
なかなか来ない衝撃をいぶかしんで、恐る恐る目を開ける。

そこには、あの時と同じ様に黒い大きな背中があった。

「恭也さんっ!!」

彼は私と女の間に入って、抜刀した二本の小太刀を油断なく構える。

突然の乱入者に驚いた女は、その場を飛び退り恭也さんとの距離を取る。
彼女の左腕は手首から先がなくなり、断面からはコードが飛び出しスパークしていた。

「遅くなってすまない。怪我はないか?」

後ろをちらりと見ながら、聞いてくる。
その質問にコクリと頷いて答えると、視線を前に戻し。

「すぐ済ませる。怖かったら、目を閉じていてくれ。」
力強く言ってくれる。


「たいした自信ね。これを見てからでも、その自信を保てるかしら?」

その言葉と同時に、女の姿が消えた。

生きる意志2 [リリカルなのはss 外伝]

幻影魔法の類だろうか、光学的に女の姿を確認することができなくなった。

後ろで、アリサも驚いているようだ。
只、俺にとっては”それだけ”のことだ。


《ブンッ》
何も”ない”空間に蹴りを放つ。

何かが、廃ビルの床に吹き飛ばされる。


「気配が全く消せていない、それで隠れたつもりだったのか?」

わき腹を押さえて苦しそうに呻きながら、立ち上がる女に呆れたような視線を送ってやる。

「先日妹が世話になった分、腕のもう一本くらい落したいところだが彼女には刺激が強すぎるからな・・・これくらいですんだだけありがたいと思え」

「甘いのね、あなた」

「「!!!」」

女の胸に後ろからナイフが生える。

後ろには先ほどまではいなかったはずの人物がいた。
年の頃は10歳前後、容姿は雫にそっくりだった。

「君は誰だ?」
たった今、串刺しにした少女に問いかける。

「わたし?私はレイ。Zシリーズの一体よ。シリアルNoはないけどね」

「・・・プロジェクトの子供か」

彼女は雫と同じ、人工生命体の一体だと言った。
だがそうするとNoがないことと、固有の名前を自ら名乗っていることが疑問に残る。

通常あの子達は、完成した後必要最低限の知識を与えられ戦闘訓練に入る。
『名前』で識別されることはありえない。
なぜなら彼らは、『モノ』なのだから。



「私も殺す? 姉さん達みたいに。」




少女の言っている意味が分からず、呆然としているアリサ




「・・・君はまだ自我を持だっているのか?」
導き出されたひとつの答え。

「ええ、自分の意思で生きているわよ。持病もしっかり持ったままだけど。」

「だから、拘置所を襲撃しこの研究の第一人者であるスカリエッティを連れ出したと。」

「ええ、その通り。
後の二人は彼のお手伝い役でね・・・、もっとも一人は役立たずだったみたいだけど。」

呆れるように、只の塊になったものを眺める。

「彼が私の病気を治せるかどうかはまだ分からない。
たとえ、1%に満たない可能性だってそこに希望があるなら私はそれにかける。
だって私は、監視者に怯えることなく自由に生きたいんだもの。
決して最期まであきらめたりしない。」

「・・・・・・」

「だって私は、監視者に怯えることなく自由に生きたいんだもの。
文字通り爆弾抱えて生きていくなんてごめんよ。」

「ふっ」

「なにがおかしいの?」
突然、恭也が微笑を浮かべたことをレイはいぶかしむ。

「強いな君は、俺と違って『あきらめる』ということを知らない。
いや違うなあいつと一緒で『最期まであきらめるということを『しない』だな。」

そこまで言って、小太刀を鞘に納める。

「殺さないの?」

「ああ、危害を加えられたわけでもないし。生きていたいと願っているだけの君を殺すつもりはない。」

「甘いのね。そんなんじゃ、いつか死ぬわよ。」

「ご忠告ありがとう。甘さゆえに自分が死ぬのは自業自得だと思ってるよ。」





「但し」


恭也の身にまとう雰囲気が一変する


「俺の大切な人達を傷つけるなら、その時はたとえ誰であろうと容赦はしない。」

宣言と共に開放された殺気は、それだけで人を殺せそうなものだった。
事実、レイも微動だにできない。


そのまま、恭也はきびすを返しいまだ放心状態のアリサを抱えあげて去っていく。


その場に残されたのは、物言わぬ女。

脱獄者の一人『クアットロ』
彼女は自身の復讐のために単独でアリサを拉致監禁をしていたが、彼女の行動からスカリエッティの所在がバレ、自身の悲願達成の障害になると判断したレイによって破壊された。

生きる意志3 [リリカルなのはss 外伝]

恭也さんは廃ビルを出て、安全を確保したところで私をゆっくり降ろし、拘束を解いてくれた。

立ち上がって見つめる私に、昔のように頭を軽く撫でてくれる。
何か子供扱いされているようで、少し悔しいがその大きくてごつごつした手の感触は今も安らぎを与えてくれる。

「よくがんばったな、アリサ。」

「怖かった・・・本当に怖かった・・・このまま殺されちゃうんじゃないかと・・・」
その声を聞いて安心したら、緊張の糸が切れ今まで我慢していた涙があふれ出す。

「ああ、もう大丈夫だ。誰も、君を傷つけたりはしない。」
そう言って、泣き続ける私を抱きしめてくれる。


逞しい腕に包まれ、一時の幸福を感じる。
このまま、抱きしめていてもらいたかったけどさすがに迷惑になるので涙をぬぐいながら顔を上げる。

「やだな、恭也さんにこんな泣き顔見られちゃって・・・。なんだか、子供みたいで恥ずかしい。」

「そんなことないさ。しばらく会ってない内にずいぶん綺麗になったな、アリサ。もう君も、立派な大人の女性だよ。」

「「・・・///」」

その台詞に思わず顔を赤くする。恭也さんも、自分で言ってて恥ずかしくなったのか真っ赤だった。なんだか、可愛い。





「今日は、家まで送っていこう。」

言われて初めて気付いたが、どうやらここは地球ではないらしい。
その辺りのことを尋ねたら、『今はまだ話せない』と言われてしまった。

今回の件も、できたらなのは達には黙っていて欲しいとのことだった。
今回の犯人は公式的にはまだ拘置所にいることになっているらしく、公になると大問題になる上私自身も事情聴取等の名目で事実上軟禁される可能性があるとのことだった。

「つらい思いだけさせておいて、忘れてくれというのは虫のいい話だが・・・この件は俺に預けてくれないか。」

「分かりました、じゃあ今回のことは恭也さんと”二人だけのヒミツ”ってことにしておきますね。」

うん、いい響き

「ああ、頼む。」

「でもいつか、なのはにも説明してあげてくださいね。あの子、教えてあげないと拗ねますよ。」

「・・・そうだな、いつか話せるといいな。」

苦笑しながら、答えてくれる。


その後も、道すがら近況を報告しあう。
そこで、ふと疑問に思っていたことを聞いてみる。


「そうだ、どうして私があそこにいるって分かったんですか?」

「ああ、アリサが連れ去られたあとにな すずか から連絡があったんだ。アリサと連絡が取れないけど、何か知らないかって。それで、アリサの持ってる忍特製携帯のGPSの信号を探して、場所を特定したってわけだ。」

そうだったんだ、後ですずかと忍さんにお礼言わなきゃ。

そうこうしている内に、家の前に着く。
そこで、ひとつ思いつく。

「ねえ、恭也さん。今日のこと黙ってる代わりに、口止め料もらいますねっ。」



チュッ



固まっている彼から逃げるように、家に入る。


そうだよね・・・あの時と違って、私ももう大人なんだもん彼の隣に立ったっておかしくないよね。

一人決意を新たにする。



あ・・・お礼言うの忘れてた・・・

生きる意志4 [リリカルなのはss 外伝]

-ある休日-
クラナガン郊外の森林公園、一組の父娘が朝の散歩をしていた。


バシッ

娘に向けて、どこからかショック性の魔法が放たれる



「これが、君の答えか?」
魔法が到達する前に娘の腕を引き自分の後ろに隠し、木陰から出てきた少女に問いかける。

「ええ、そうよ。姉さんの体を手に入れて私は自由になる。」

「・・・脳移植か。」

「ご名答。」



「・・・それしかなかったのか。」

「ええ、それしかなかったの。だから『姉さん』,私の為に死んで」



その答えを聞いて父は、小太刀を抜く
「その願い、聞き届けるわけにはいかない。止めさせてもらう。」

「いいわ、できるものならやってみなさい。」

宣言と同時に大振りのコンバットナイフで突きこんでくる。
しかし、いくら気殺に優れた個体であり戦闘知識を持っていようと所詮子供の体格であり、奇襲でもなく正面から戦って戦闘のプロに勝てるわけがなかった。

数度の打合いで、ナイフがはじき飛ばされる。


「勝負は着いた、もう引くんだレイ。」
小太刀を胸に突き付け、引くように諭す。

「ホント、甘いのねアンタ。」
そのまま突っ込んでくる、

ザシュッ
レイの心臓を恭也の小太刀が貫いた。


小太刀を引き抜くとそこから大量の血が噴出す、明らかに致命傷だった。
崩れ落ちるレイを、恭也は抱きとめる。

「何で、首を撥ねなかったの?
自爆したらどうするつもりだったの?」

「生きていたいと思っている君が、自殺するとは思わなかったからな。」

「だから、甘いのよ。でも、あなたのそんな甘さも嫌いじゃなかったわよ。」

「・・・」

「これが、人のぬくもりなのね・・・はじめて知ったわ。
今まで、生きていてよかった。
最期にお願い聞いてもらえる?」

「何だ?」

「姉さんと話をさせて。」

「ああ。」

少し離れたところで様子を見ていた娘を呼ぶ。


レイはその瞳に、姉の姿を映すと弱弱しくつぶやく
「姉さん、私の分も幸せになってね・・・」

無言で頷く姉の姿を確認した後、ゆっくりとまぶたを下ろし息を引き取る。
その顔はどこか満ち足りた表情をしていた。

レイのポケットには、スカリエッティ一味の潜伏場所、未確認だったプロジェクトの研究所の所在、そして爆弾移植の手術ミスで彼女の体が後1ヵ月も持たなかったこと、そのためNoを与えられることなく廃棄されたことが記されたメモがあった。


後日 恭也はレイを自分の娘とした上で埋葬した。

パンドラの箱 [リリカルなのはss 外伝]

軌道拘置所から脱獄して、管理局の目を逃れ管理外世界にラボを構え再建を図っていたある日

突然、後頭部に衝撃を受け、しばらくして気付けばそこは無機質な部屋だった。
室内にはAMFが展開され、両手には手錠が掛けられていた。


目の前には、監視員だろうか武装した黒尽くめの男が一人立っていた。

「ここは、どこだい?君は、何者だ?」

「囚人護送艦の一室だ。俺は『不破恭也』、お前をあるべき場所に帰す者だ。」

「ふむ、あそこのラボには数体とはいえガジェットは配置してあったし、AMFを常時展開してウーノが警戒網を張っていたはずなんだが・・・」

「気が付かれなければどうということはない。それに、俺にAMFは無意味だ。」



「そうか、あの時ウーノが言っていた『unknown』は君だったのか。
『ゆりかご防衛』と『地上本部襲撃』の応援にまわす予定だった800体近いガジェットが、魔力探知できない何者かに撃破された時は何かの間違いだと思っていたが・・・。」



「管理局職員には注意を払っていたが、”Fランク”ということで警戒していなかったからな、君の脅威は魔力量ではなくその戦闘能力そのものだったわけか・・・私も物事の本質を見誤ったということだな。

面白い、実に面白い。機会があれば、君の体と頭を研究してみたいものだ。」



「俺にその手の趣味はない。いじりたければ、自分のだけにしろ。
9年前の冬の出来事を忘れたと言わせるつもりはない。」



『白い悪魔』を襲撃したことによって『黒い死神』を呼び、その後の全ての計画が崩れたというわけか。




どうやら私はあの時、『パンドラの箱』を開けてしまったようだ。

親の資格 [リリカルなのはss 外伝]

「ねえお兄ちゃん、私に親になる資格ってあるのかな?」

「どうした急に?」

久しぶりに連絡を入れてきたなのはが、唐突に俺に問う。
質問の要領を得ないので詳しく内容を聴いてみる。

それによると先日事件の際に保護した身寄りの無い女の子を自分の子供として引き取るかどうか、悩んでいるという事だった。

「なのははどうしたいんだ?」

「私としてはヴィヴィオも私を慕ってくれてるし引き取りたい気もするんだけど、親としてやっていく自信が無いんだ。それに、私は空を飛んでるからいつ墜ちるかどうか分からないし、そう考えると他の里親を探してあげた方がヴィヴィオにとって幸せなのかなって・・・」

「なのは、その子の幸せはその子自身が決めるものだ、周りが押し付けるものじゃない。親がしっかりしていなくても子供は育つ、だからそんなに心配しなくてもいい。少なくとも父さんは、男として剣士としては尊敬はしてるが親としては失格だったからな。」

「・・・・・・」

「なのは、今 幸せか?」

「どうしたの、突然?」

「なのは、お前が今こうして生きていられるのはなぜだと思う。それは、父さんが母さんを愛し選んだからだ、その二人の愛の証としてお前がこの世に生まれてきたんだ。父さんのボディガードの仕事は常に死と隣合わせ、いつ死んでもおかしくない、それでも父さんも母さんも二人で幸せになる事を望んだ。確かに父さんが亡くなった時、母さんは悲しい思いをしたが、それでも二人で過ごした時間と生まれてきた新しい命は確かに幸せなものだ。
いつ来るか分からない別れを心配するよりも、今という時を精一杯幸せに生きた方がいいと俺は思う。」

「私は今確かに幸せ、頼れる仲間に囲まれて過ごせてる・・・でも、私は一度墜ちてる。」

「なら、内勤にでも転属願いを出せばいい。」

「それはできないよ。私にとってヴィヴィオはもちろん大切だけど、私の力を必要としてくれている守りたい人達がたくさんいるもの。」

「我侭だな、妹よ。」

「む~真剣に悩んでるんです。」

「簡単なことさ、お前が墜ちなければいいだけの話だ。それで全て解決する。その子の為にも『必ず生きて帰る』それだけだ、『最後まであきらめない』がお前の信条だろそれを貫き通せばいい。
父さんも最期まであきらめてはいなかったさ。」

「・・・ありがとう、お兄ちゃん。なんとなく、答えが出せそう。」

「そうか、なんにせよ後悔の無い様にな。」





なのは、二度とお前を墜とさせたりしない、たとえ俺の命に代えても

ギンガの恋 [リリカルなのはss 外伝]

私の名は、ギンガ・ナカジマ。15歳。

時空管理局 陸上警備隊第108部隊に所属している。階級は一等陸士。



通常業務終了後今私は訓練場で、自主鍛錬の真っ最中だ。
というのも、2ヶ月ほど前に就いた任務で己の未熟さを思い知ったから。

同時に、努力は裏切らないことを確信させられたからでもある。




-ミッドチルダ西部 郊外-

その日、私は小隊の仲間と違法操業の疑いがある工場に強制捜査を行っていた。
あらかたの捜査を終え証拠を押さえ、関係者を連行しようとした時、逮捕者の一人がこちら側の隙をつき何かのスイッチを押す。



ガコンッ



何かが開くような音がし、機械の駆動音が聞こえてきた。

「各員、警戒しろ。」

隊長の言葉に、皆に緊張が走る。


ヴーン ヴーン


「おい、おい、何の冗談だ。こんなの聞いてないぞ。」

隊員の一人がぼやく。
ぼやきたくなるのは、皆同じだろう。何しろ、工場の四方から『ガジェット・ドローン』が湧き出てきたのだから。

まさしく、"湧き出る"という表現がぴったりだと思う。
ざっと見たところ、Ⅰ型が40弱といったところか、こちらを包囲するようにやって来る。

「本部に応援要請ッ。出口に向けて、一点突破を図る。砲撃可能な者は6時の方向に全力射撃!!」

「ッ、ダメです。AMF濃度が高くて、魔力結合ができません。」

魔力資質の高い魔導師は本局に引き抜かれるため、私たち地上部隊には魔力資質の高い者は少なく高濃度AMF下では成す術もない。
もちろん、AMF下を想定した訓練は積んでいるがここまでの状況は完全に想定外だった。


《ジュゥー》


遂にガジェットがこちらを射程に収め、レーザーによる攻撃を開始してきた。


「シールドッ・・・うわっ」

ザシュッ


レーザーをシールドで防ごうとした隊員が、AMFの影響で満足にシールドが張れず足をレーザーで撃ち抜かれる。


「シールドで防ごうとするな!!物陰に隠れて、物理的にかわせっ。」



「隊長、このままでは全滅です。私が、直接攻撃をかけて包囲網に穴を開けます。」

「おい、無茶をするな。応援を待て。」

「大丈夫です、私は『シューティングアーツ』を習得しています。それに、魔力運用の訓練も受けてますから何とかなるはずです。援護は頼みます。」

ローラーブーツで加速して、出口前に陣取る一体のⅠ型にリボルバーナックルを叩きつける。一撃で壊しきれなかったので続いて二撃、三撃と撃ち込み無力化する。一体の破壊に時間がかかり過ぎたため、他のガジェットに接近を許してしまっていた。

アームケーブルを振り回し、こちらにやって来る。

「オラッ」

バシッ

フロントアタッカーの隊員が、デバイスでアームケーブルを叩き落す。

「ありがとうございます、助かりました。」

「なに、どうってことないさ。それより、次いけるか?悔しいが俺のデバイスじゃ、とてもじゃないが本体を破壊するのは無理だ牽制で精一杯だ。」

「分かりました。Ⅰ型なら、何とかなると思いますので援護願います。」


Ⅰ型をさらに数体、倒したところでそれは来た。
自分の前が開けたと思ったら、5メートル程先にⅠ型が浮遊していて今まさにレーザーを撃ち出そうとエネルギーをチャージし終えたところだった。


「ギン「雷徹」ガ!!」

ドッ


後ろで、私たちの援護をしてくれていた隊長の声に他の男の人の声が重なった。




ブシュー ドスン



「「「!!!」」」

誰もが目の前の光景が信じられなかった。
今の今まで、私達が必死になってようやく倒していたガジェットを唯の一撃で壊してしまうなど・・・



「ギンガッ、よけろッ」

あまりのことにボーっとしていた私に仲間から警告が飛ぶ。
後ろから、Ⅰ型のアームケーブルがしなりを打って迫っていた。


ヒュッ

ガンッ ブシュー


後ろに迫っていた、ガジェットはセンサー部分に棒状のモノが突き刺さり機能を停止させられていた。


ガジェットが、工場の床に落ちる音で我に返った私は仲間と合流し新たな乱入者を観察する。 


それは、全身黒尽くめの男だった。
二本の細い剣を操り次々とガジェットを倒していく。

彼の戦い方はうまかった。
ガジェットにはそれぞれAIが組み込まれており、近距離に別個体がある時は同士討ちを避けるためレーザーではなくアームケーブルもしくはベルトで攻撃するようにプログラムされていた。
そこで彼はあえてガジェットに包囲させ攻撃を仕掛ける、ガジェットからの攻撃はスピードと軌道予測をもって回避 しかも、回避運動に一切の無駄がなく一連の流れで行われていた。

まるで、舞を踊っているようだった。

舞の中、彼の攻撃は全て一撃必殺、時に刺し、時に斬り、時に投げ物で打ち倒す。



気がつけば、3分もしないうちに全てのガジェットが倒されていた。



彼が剣を鞘に納めこちらにやって来る。


「本局、嘱託魔導師『不破恭也』であります。救援が遅くなり、申し訳ありませんでした。まもなく、貴隊の応援と救護班が到着するかと思います。念のため工場外に出て、安全な場所で待機を。」

「すまない、救援感謝する。おかげで、何とか死者を出さずに済んだ。」



それから、しばらくして108部隊の他の小隊が何部隊かと救護班が到着した。
けが人を救護班に任せ、現場の後処理を引き継いで私達は隊舎に引き上げた。


デブリーフィングが終了したので、シャワーでも浴びてすっきりしようと廊下を歩いていたら、談話室に先程の彼がいた。
先程のお礼を個人的に言っていなかったことを思い出し、部屋に入る。


軽く自己紹介をして、先程の礼を述べる。
彼の上司と父さんが知り合いらしく、私達が出発した後にあったやりとりで今回の強制捜査の話が出て急遽、彼が応援に駆けつけたらしい。
最初は私に対して敬語で話してくるので戸惑ってしまったが、彼のほうが年上だし階級も上なので普通に話してもらえるようにお願いした。



「でも、不破さんはすごいですね。AMF下で、あんな戦闘ができるなんて・・・」

「まあ俺はどの道『魔法』使えないからAMF下でもあまり関係ないし、むしろ魔法攻撃がない分むしろやりやすい。」

「えっ、使えない?」

「そうだぞ。使えるのは、せいぜい『念話』と『空中の足場』、『魔力コーティング』ぐらいだ。」

言われてみれば、魔法を使った様子は特になかったような・・・でも、あのでたらめな動きは・・・

「で、でも時々すごく速く動いてましたよね。それに、ガジェットの装甲を打ち破るにはそれなりの力がいるはずですよ。」

「あれは、俺の修めている武術の歩方のひとつだ。ガジェットの装甲に関しても、装甲の内側にダメージを徹すことができる技があるし、何よりセンサー部分なんかを突けば無力化は可能さ、必ずしも装甲を抜く必要はない。」

「・・・」

「"『魔法』が使えなきゃ戦えない"じゃ守りたいモノを守れないからな、使えないなら使えないで他の"戦い方"を考えるさ。」

「"戦い方"・・・」

先程の戦闘を思い起こしてみる。
彼の戦闘中のスピードは私のそれよりもむしろ遅いくらいだったし、一撃一撃のパワーも私の方があったようだ。

でも、あの場を支配したのは紛れもなく彼であった。

「目的に応じて変えること。必ずしも"戦って"勝つ必要はない、場合によっては逃げるのもひとつの手さ。戦わずに済むならそれに越したことはないからな。」


その時私は確信した、この人は"強い"と。私の尊敬する、もう一人の女性(ひと)と同じように。





「不破さん、私に"戦い方"を教えて下さい。大切な人達を守る力が欲しいんです。」



「・・・了解した。君ならば、力の使い方を間違えることもあるまい。唯、一つだけ約束してくれ、どんな戦いにおいても最後まで"生きることをあきらめない"と。」










「ギンガ、お客さんだぞ。」
1クール終わったところで、通信が入る。

「お客さんって誰?父さん。」

「おいおい、職場で『父さん』はないだろ。お嬢だ。」



バリアジャケットを解除して、隊舎に戻ると執務官の制服を着たフェイトさんがいた。
私とフェイトさんの出会いは2年前、父さんに面会するために行った空港で火災事故に巻き込まれた際助けてもらって、それ以来何かと面倒をみてもらっている。


フェイトさんはランクS+の空戦魔導師であり、現役の若手執務官である。
超難関の執務官試験に私の年齢になる前に受かっている彼女の非凡さは管理局内部でも抜きん出ていると思う。
そんな、『エリート』にも関わらずそれを鼻にかけることなく誰にでもやさしい性格の彼女はその容姿もあいまって、管理局だけにとどまらず各層各業界ともに人気が高いく、管理局のもう一人の"アイドル"『高町なのは』一等空尉と人気を二分している。

もちろん、キャリアなどの外見的なところや、高い戦闘技術だけでなく自分を常に律することができる内も強い女性(ひと)だということを私は知っている。


だからこそ、私は彼女を敬愛している。

管理局員としても、女としても、一人の人間としても。



「フェイトさん、お久しぶりです。」

「久しぶりね、ギンガ。元気だった?」

「ええ、おかげさまで。今日は、どうしたんですか?」

「ちょっと、今追ってる捜査でこの近くまで来たものだから、顔を出させてもらったの。」


どことなく、覇気がなさそうな様子に少し心配になる。


「そうだったんですか、何かお疲れのようですけど・・・大丈夫ですか?」

「・・・うん、ごめんね。広域指名手配中の次元犯罪者の捜査が行き詰ってて、ちょっとね・・・」

「そうですか・・・、私に協力できることがあればいつでも言って下さい。喜んで、お手伝いさせて頂きます。」

「ありがと、ギンガ。頼りにしてるわ。悪かったわね、あなたの貴重な時間を私の愚痴につき合わせちゃって。」

「いえ、気にしないで下さい。鍛錬していただけですから。」

「そっか・・・。ねえ、ギンガ、もしよかったら私と模擬戦してくれない?最近、体動かしてないし、対人で近接戦闘のできる訓練相手がなかなか捕まらなくって。」





私は再び訓練場に戻り、デバイスを起動してリボルバーナックルを左手に装着、バリアジャケットを展開、ローラーブレードを着けた。

フェイトさんもバルディッシュを起動、バリアジャケット姿になる。


『始め』の合図と共に、一気に間合いを詰めリボルバーナックルに魔力を込め全力で打ち込む、シールドを張られ一瞬前進が止まり、バルディッシュを向けられる

『プラズマスラッシャー』

目の前にいる相手に対し、誘導系はおそらくないと読んでいた私は横に避けず屈むと同時に前に出ることによって回避し、横なぎに右手で相手の軸足を払いにいく。

とっさに後ろに跳んでかわす相手に、屈んで溜め込んでいた力を解放し間合いを詰める。
リボルバーナックルに再度魔力を込め、斜め下から打ち込む。

手数を多くして、相手に距離を取らせず接近戦を挑み続けているが、さすがにクロスレンジからミドルレンジまでそつなくこなす一線級の人だけあって、一撃を入れることができない。

そうこうしているうちに、上空に逃げられてしまう。
こうなると、正直私のような陸戦魔導師は打つ手なしになってしまう。射撃系の魔法を持たない私はなおさらだ。



『プラズマバレット』

上空から誘導弾が降り注いでくる。
《ディフェンサー》を展開し、直撃を避け同時に着弾による目くらまし効果を狙う。


『ウィングロード』

空を飛べない私の、空への翼。この魔法を使えるのは、今のところ私と妹の『スバル』だけ。
でもこの翼、最大の欠点は道筋が見えてしまうこと。


現に、上空の彼女の左斜め上に私の魔力光である紫色の道が伸びている。
結果、彼女はそちらにバルデッィシュを向け駆け上がって来るであろう私に向け魔力をチャージした。


『ソニックムーブ』
『ナックルバンカー』


私が、彼女の真下から拳を突き上げるのと、高速機動魔法でかわされるのはほぼ同時だった。
なぜ、私が真下から攻撃ができたのかそれはいたって簡単先にこれ見よがしに道を示し、遅れて発動させたもう一本の道を使い、"空中"ゆえに完全に死角になる真下から近づいたのである。



バチィッ



どうやら、設置型のバインドで拘束されてしまったようだ。
喉元に、バルディッシュを突きつけられ模擬戦終了となった。





少し汗を掻いたのでシャワーを浴び、談話室でお茶を飲みながら先程の模擬戦を振り返る。

「前に見たときより、また強くなったわねギンガ。最後は、私も予想外だったわ。」

「でも、どうして私が真下から来るって分かったんですか?」

「そうね、気配を感じたって所かしら・・・それで、『ソニックムーブ』で後ろに避けると同時に、とっさに自分がいた位置にバインドを設置したの。」

「気配ですか・・・。」

「うん、"気配"って言うと大げさかもしれないけどなんとなく感じたの。もっとも、シグナムやなのはのお兄さんははっきり感知できるらしいんだけどね。」

「それを探知されないようにしないと、一撃を入れるのは難しそうですね。」

「そんなことないよ。フェイントもうまく入れれるようになってるし、相手の先を読むのもうまくなってるから時間の問題かも。でもなんで急にこんなに強くなったの、何かあった?」

「ええ少し前に知り合った人に、戦い方を教えてもらってるんです。『ウィングロード』の使い方も相談したら、《別に通したからといって"必ず"通らなければいけないというわけじゃない、だったら"おとり"で使うなり"進路妨害手段"として使うなり"本来"の使い方以外を考えれば戦術に幅が出る。それは、君の"武器"になる》って教えてくれたんです。」

「ふーん、そうだったんだ。ギンガ毎日の鍛錬の成果もあるとは思うけど、それにしても短期間でをここまで伸ばせるなんてすごく腕の立つ魔導師なのね。教導隊のなのはが欲しがりそうね。」

「そうですね。でも、魔法はほとんど使えないって言ってましたよ、そもそも魔力量が異常に低くてランクも『陸戦Fランク』で登録されてるそうですし。」

「え、そうなの。」

「ええ、只 魔法は使えなくても充分強いですけどね。私なんて秒殺されちゃいましたし、108部隊でも今の所誰も勝ってないですよ。体術と戦いを組み立てるのが異常にうまいですし、さっきフェィトさんが言ってた『気配』を消すのもうまいので"気付いたら後ろにいた"なんてこともありましたよ。」

「なんだか、化け物じみた人ね。」

「でも悪い人じゃないですよ、何かとやさしいですし。休憩中はお互いの妹自慢をしてますよ。」

「そうなんだ、ギンガはその人のこと好きなんだ。」

「えっ、//// なんで、そうなるんですか。」

「だって、そんな嬉しそうな顔して話してるの初めて見たし。エイミィがクロノこと話してる時と同じだから、違った?」

「フェイトさん、性格変わりました?八神三等陸佐みたいですよ。」

「ふふ、冗談よ。まあ、いろいろがんばってね。」





-数日後-

今日はあの人が稽古をつけてくれる予定だ。
前より、強くなったところを見せて褒めてもらおう。
何か、子供みたいだけどあの人に褒めてもらえると心が温かくなる。

あの人のことを考えるとなんだかドキドキするのはなぜだろう。
年の離れたお兄さんみたいな人、彼にとって私は"教え子"それとも"妹"どうなんだろう?

聞いてみたいような気もするし、聞くのが恐いような気もする。



「あ、恭也さん、こんにちは。ひとつ、質問が・・・」

出来損ない [リリカルなのはss 外伝]

あたしは、兄の部隊葬に参列している。
今は、関係者による弔辞が述べられている。

あたしの兄『ティーダ・ランスター』は時空管理局 首都航空隊に所属する魔導師だった。
4日前、逃走違法魔導師追跡任務中に容疑者からの攻撃を受けて殉職した。



「・・・容疑者を取り逃がした上に殺されるなど、私の部隊に泥を塗りおって、とんだ"役立たず"の男だ。」


あたしの横で、航空隊の大隊長が兄を罵る。

悔しくて、拳を握り締め唇を引き結ぶ。
周りの兄の同僚達もいい感じはしないようだが、相手が"偉い人"である為表立って不快感を表することはできないようだった。



「閣下、故人を侮辱しないで頂きたい。」

突然、後ろの方から声が上がった。

「何だ、貴様は。」

「私は・・・『XXXX』です。」

黒いスーツを来た、兄より少し年上くらいの男の人だった。

「ふん。ランク"F"の"出来損ない"が何の用だ。」

「ランスター一等空尉は、立派に職務を全うされました。そのことを同じ局に所属する者として誇りに思っております。」

「"出来損ない"同士気が合うものだな。」

「"出来損ない"にも"出来損ない"なりの誇りがあります。閣下のおっしゃりようでは、今後の部隊士気に関わると愚考いたしますが。」

「ふん、そんなことは貴様に言われるまでもないわ。」

そう吐き捨てて来賓の席に戻る。





埋葬が終わり、部隊葬は完了した。
皆が解散していく中、あたしはさっきの男の人を探していた。

あの人は周りが相手の地位を恐れて萎縮してしまっている中、自分が貶められるのを承知で『兄』と『あたし』の誇りを守ってくれた。





「あの、すみません。」

「はい、どうしました。お嬢さん。」

「あ、あの あたし、ティーダ・ランスターの妹でティアナ・ランスターといいます。先程はありがとうございました。」

「いえ、構いませんよ。自分が感じたことを言ったまでですから。」

やさしく、微笑んでくれた。
兄さんと違って、少しきつい感じのする男の人だったけどその笑顔は兄さんと同じで温かかった。





「君は、泣かないのかい?」

しばらくして、その人はおもむろに尋ねてきた。
なぜか、心のうちを見透かされているような気がした。

「・・・・・・、いまあたしが泣いてしまったら、兄さんのしたことを否定したことになるような気がするんです。さっきの人が言っていたことを認めてしまうような気がして・・・」

男の人は、ゆっくり頭を振って言う。

「そんなことはない。悲しい時は泣いていいんだ。悲しい時、無理に"泣かない"と人は壊れてしまう。だから、お兄さんの為にも、そして何よりも君自身の為に無理せず泣いて欲しい。」



湧いてくる涙をこらえることができなかった。
立派だった兄の意志を継ごうと、強くなって兄をバカにした周りを見返してやろう、泣いてる暇はないと、ずっとこらえてた。

でもどこかで思っていた

「"役立たず"でもいい、"立派"じゃなくてもいい、罵られたって構わない。どんなにみっともなくてもいいから、生きていて欲しかった、生きて傍にいて欲しかったんです。」



彼は咽び泣くあたしをやさしく抱きしめ背中をさすってくれる。
そう、かつて兄がしてくれたように。








「・・・すみません。服、濡らしちゃって。」

「ああ、別に構わないよ。もう、大丈夫かな?」

「ええ、まだ直ぐには立ち直れないかも知れないですけど、いつかきっと兄の夢をあたしが叶えます。」

「そうか、君は強い、きっとできるよ。ただ、無理だけはしないようにな。お兄さんも、きっと悲しむから。」

「はい。」


あたしが6課に配属される6年前の出来事だった。

弱音 [リリカルなのはss 外伝]

襲撃の傷が癒えて、私はリハビリを続けている。
リハビリを開始してから2ヶ月、立つことすらまだ出来ていなかった。

今日のリハビリ訓練は全て終了し、今は個室のベットで今日もお見舞いに来てくれたお兄ちゃんと話していた。


「私の為にみんなが頑張ってくれてるのに、こんなことぐらいで弱音なんか吐いてられないよ。」
無理矢理笑顔を作る。

「お前は本当に優しい子だな、弱音を吐くと周りが余計心配すると思ってるのか。」

ギュッと掛けシーツを両手で掴み、俯く。
お兄ちゃんはふぅとため息を吐いて頭に置いた手を外し、頬に添えてわたしの目を見つめ優しく語りかける。


「家族・・・兄には我慢しなくていい。弱音を吐いてくれて、頼ってくれていい、むしろ気を遣われる方が辛い。」

「・・・・・・」

「それともなにか、兄は頼るに値しないか?・・・まあ、確かに守ってやることは出来なかったが。」

「む~お兄ちゃんのいじわる。」

「そうだぞ、兄は意地悪だから好きな子は苛めたくなるんだ。」



そんなこと言われたらもう我慢できないよ。
今まで耐えていた悔しさが、辛さが溢れてくる。

「こんなに頑張ってるのに、こんなに痛みに耐えてるのに全然思い通りにいかなくて、辛くて。
みんなに心配ばかりかけて無理させて、そんな自分の不甲斐なさが情けなくて悔しくて、こんなはずじゃなかったのに・・・。」

「そうか、そうか辛かったな、なのは。ありきたりだがな、なのは・・・焦らなくていい。誰もお前を置いていったりはしない、兄はいつまでもお前を待っている。お前のペースでゆっくりと進めばいい、今は休む時だ。」

お兄ちゃんに頭を撫でられながら、涙を流す。シーツの上に涙の染みが広がっていた。








「お待たせしました、シャマル先生。なのはも落ち着きましたから、どうぞ。」

突然室内から声を掛けられてびっくりする。

「あの、いつから気が付かれてました?」

「シャマル先生がいらっしゃった時ですよ、すみませんお気を遣わせてしまって。ずいぶんお待たせしてしまいました。」

「ちょうど今、泣き疲れて眠ったところです。検査等でなければ、少し眠らせてやって貰えますか。」

「ええ、大丈夫です。ちょっと様子を見に来ただけですから。
なのはちゃん、いつもメニュー以上のリハビリをしようとするから心配だったんです。
焦ってたんですね、彼女。そんな気持ち、全然気が付いてあげれなかった。」

「仕方がありませんよ、この子は昔から自分の気持ちを隠すのがうまいですから。俺達が"そう"させてしまいましたから。」

「どういうことなんですか、それは。」

「この子が生まれる少し前に父親は仕事で亡くなりました。この子が生まれた後も、母親はOPENしたばかりの店の切盛りで余裕がなく、俺も美由希も学校や修行であまり構ってやれなかったんです。
一番家族の愛情が欲しい時期に誰もついていてやることが出来なかった。そんな中でも、あの子は我侭を言うでもなくじっと家で待っていました。子供心に心配を掛けたくないと思ったんでしょう、それからというのも辛いとか悲しいといった感情を外に出さずに内に溜め込むようになってしまったんです。
管理局の皆さんは、なのはの事をしっかりした大人として扱ってくれますが、俺達家族にとっては"甘え方を知らない"普通のかわいい女の子なんです。」

「ええ、それははやてちゃんにもフェイトちゃんにも言える事かもしれませんね。」

「なのはにしても、あの子達にしても内に溜め込んだ感情はいつか心を壊します。
だから、泣ける時には泣いて欲しい。兄としてあの子達の友として、泣く場所を、時間を作ってやることぐらいは出来ると思うから。」

「ええ、なのはちゃんは私の大切なお友達ですから。私も家族として友達として精一杯あの子達を支えていきます。」



ベットに年相応の可愛らしい寝顔で眠る小さな魔導師を見て思う。
なのはちゃんは大丈夫。こんなにも思ってくれるお兄さんがいるんだから、きっともっと強くなれる。

古里 [リリカルなのはss 外伝]

-ある日の高町家-

「いらっしゃい、フェイト。なのはは、ちょうど今駅前まで買い物に出かけたからしばらく戻らないがいいか。」

「あ、あの今日は、なのはじゃなくて桃子さんに相談したいことがあってお邪魔したんです。」

「かーさんに?でも、まだ翠屋にいるんじゃないか、帰ってくるのも閉店してからだろうからもう少し遅くなると思うし。」

「ええ、さっき翠屋さんに寄らせてもらってご都合お伺いしたらこちらで待っていてくれと言われたので。」

「ふむ、まあとりあえずあがってくれ。そのうち、なのはも帰ってくるだろ。」

リビングに通され、お茶をもらう。
二人で適当に世間話をしながら時を過ごす。

ちょうど、今日桃子さんに相談したかったことに関して参考までに恭也さんにも聞いてみることにする。

「あの、恭也さんの6歳頃ってどんな感じの男の子でした?」


唐突な私の質問に驚きながらも、答えてくれた。

その頃は父さんに連れられて、日本全国を武者修行の旅で駈けずり回る日々。
恭也さん曰く、武者修行といえば聞こえはいいが只の破天荒な道場破りの旅だったそうだ。本場の毛ガニが食べたいと北海道に行ったかと思えば、翌日には辛子明太子が食べたいと九州に飛んだり無計画な旅が祟って路銀がつき食料を得るために道場破りをしたり、修行だといって冬山に碌な装備も持たず登頂し凍死しかけたり。
食料は各自現地調達といって、山の中で猪と格闘したり。
その時、まだ父さんは再婚しておらず母親もいなかったため士郎さんが仕事等で出ると必然長期一人になることも多かった。

そんなこんなで破天荒な父を反面教師に妙に落ち着いた子供になってしまっていた。
周りは、『我侭を言わない老成した子』だって言ってくれてたけど、父さんは我侭なかわいげのないガキだってその都度笑ってた。
・・・でも今にして思えば、冬の寒空の下野宿する時に毛布が欲しいって言ったのは我侭じゃないよな。なんせ、あの時父さんは寝袋の上から三枚以上掛けてたんだから。

話が終わる頃には、恭也さんは遠い目をしていた。



壮絶な幼年時代を過ごして来たことは分かったが、年頃の男の子の思想の参考にはならなかった。
私は桃子さんを訪ねた理由を話す。

先日、仕事中に保護した男の子がいてその子とどうやって接していったらいいか悩んでいるというもの。
その子の生まれは特殊で幼い頃の出来事が原因で人間不信に陥っていて、つい先日まで誰も近づけさせようとはせず見境なく魔法で攻撃してくるような有様だった。
繰り返し体を張って説得することによってようやく少し落ち着いてきたが、まだ自分に対して心を開いていないのかどこかよそよそしい態度を取ることがあり少し寂しく感じる。

「私はあの子の家族になってあげたい。本来なら家族から受けられた愛情をあの子に伝えたい、そう思うんです。おこがましいことなのかもしれませんが。」

「フェイト、考え過ぎだ。それは、君の良い所であることに違いないし、深く考えずに突走るあの子には見習って欲しいところではあるが。」

「いいんですかそんな事言って、なのは怒りますよ。」

「あ、いや。今のは忘れてくれると助かる。
その子はおそらく戸惑ってるだけだろう、今までやさしくされた記憶がないからどう接して良いのか分からないだけなんだろう。家族なら相手に余計な遠慮は無用だ、だからフェイトは今まで通り普通に接してやればいいと思う、いつでも受け入れてやれるようにしてその子が進む時を焦らず待てばいい。俺はそう思う。」

「そうですね・・・」

「ふむ、まだ別のところに悩みがあるみたいだな。」

なんで分かっちゃうんだろ、恭也さんには。
もう一つの悩みも打ち明ける。

執務官の仕事をする傍ら身寄りのない子供を保護する私に対して、影で『偽善』だとか、親からの愛情を受けられなかった『代償行為』に過ぎないって言われて自分のしている事が本当に子供達の為になっているかどうかが不安になっている事を。

「フェィト、君は周りを気にし過ぎだ。この場合必要なのは、子供達の意志となにより君がどうしたいかだ外野は関係ない。子供達に選択肢をより多く示す事は決して悪いことではないし、その中から何を選ぶかはその子達の自由だ。『偽善』で結構、何もしないより行動することによって救われる心があるのならそれで充分だ。
自信を持てフェイト、君が今までやってきたことこれからやろうとすること、たとえ誰も肯定してくれなくても少なくとも俺が認める。もしそれが違うと感じたなら全力で止めよう。もっとも、俺以外にも、なのはやはやて、アリサ、すずか達を始めとしてフェィトをよく知る人達はみんな、君を支えてくれるはずだだから存分に頼ればいい。それが友人というものだ。」



そう恭也さんが諭してくれた時、外から猫の鳴き声がした。



縁側に移動すると、三毛と縞柄の子猫がいた。
恭也さんが皿に餌を載せ庭に置く、三毛の子は置くとすぐに食べ始めたが縞柄の子は恭也さんが離れたのを確認してから皿に近づいて来た。

一心不乱に食べる三毛の子に比べ縞柄の子はどこかあたりを警戒しているようだった。

「あの子はどうも人間に虐められたみたいでね、ここに来た時後ろ足に怪我をしてた。
病院に連れて行こうとして、捕まえたときにずいぶん引っ掻かれたよ。今はようやくこうして餌を食べに来る様にはなったんだけどな。」

先に食べ終わった三毛の子が甘えるように恭也さんの足元に擦り寄る。
ヒョイと首筋を持って、膝の上に乗せ背中を撫でる。子猫は気持ちよさそうに目を細めていた。



『コラッ』
恭也さんが突然、縞柄の子を叱った。縞柄の子はビクっとした後、庭の隅に行きしばらくして戻って来て不安げにこちらを見ている。

「どうしたんですか?突然。」

「いやマーキングをしようとしてたから、トイレに行かせただけだよ。あちこちでされるとご近所に迷惑をかけるからね、躾だけはしっかりしとかないと。」

三毛の子を地面に下ろし縞柄の子に向う。
いつでも逃げれる様に後ろに重心を移しながら、様子を窺っている。

「ちゃんとできたな、偉いぞ。」
頭を指で撫でる。最初こそ、ビクっと反応したものの落ち着いてきたのかその場に座り尻尾を軽く振る。
三毛の子が自分も構ってとばかりに、足元を行き来する。


そんな温かい光景を見ていたら、なぜか心が軽くなったような気がした。





「フェイト達は今年で卒業だったな。春からはどうするんだ?」

「ミッドチルダに引っ越して管理局の仕事に就く予定です。」

「そうか、なのはもそう言ってたな。皆がそれぞれの道を歩み始めるのは嬉しい事だが、寂しくなるな。」

「でも休暇には帰って来るつもりですよ。ここはやさしい思い出の詰まった私の故郷の一つですから。」

「ふむ、では帰ってきた時は店にでも顔を出してくれ。お茶ぐらいはご馳走しよう。
何かあっても、何もなくてもいつでも気兼ねせずに来るといい、力になれずとも話を聞くことぐらいは出来るだろうからな。」



私はこの街に来て本当に良かった。大切な友達に巡り合うことも出来たし、私のことを思ってくれる沢山の人達に出会うことが出来た、それは"人"としてとても幸せなこと。
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