SSブログ

ギンガの恋 [リリカルなのはss 外伝]

私の名は、ギンガ・ナカジマ。15歳。

時空管理局 陸上警備隊第108部隊に所属している。階級は一等陸士。



通常業務終了後今私は訓練場で、自主鍛錬の真っ最中だ。
というのも、2ヶ月ほど前に就いた任務で己の未熟さを思い知ったから。

同時に、努力は裏切らないことを確信させられたからでもある。




-ミッドチルダ西部 郊外-

その日、私は小隊の仲間と違法操業の疑いがある工場に強制捜査を行っていた。
あらかたの捜査を終え証拠を押さえ、関係者を連行しようとした時、逮捕者の一人がこちら側の隙をつき何かのスイッチを押す。



ガコンッ



何かが開くような音がし、機械の駆動音が聞こえてきた。

「各員、警戒しろ。」

隊長の言葉に、皆に緊張が走る。


ヴーン ヴーン


「おい、おい、何の冗談だ。こんなの聞いてないぞ。」

隊員の一人がぼやく。
ぼやきたくなるのは、皆同じだろう。何しろ、工場の四方から『ガジェット・ドローン』が湧き出てきたのだから。

まさしく、"湧き出る"という表現がぴったりだと思う。
ざっと見たところ、Ⅰ型が40弱といったところか、こちらを包囲するようにやって来る。

「本部に応援要請ッ。出口に向けて、一点突破を図る。砲撃可能な者は6時の方向に全力射撃!!」

「ッ、ダメです。AMF濃度が高くて、魔力結合ができません。」

魔力資質の高い魔導師は本局に引き抜かれるため、私たち地上部隊には魔力資質の高い者は少なく高濃度AMF下では成す術もない。
もちろん、AMF下を想定した訓練は積んでいるがここまでの状況は完全に想定外だった。


《ジュゥー》


遂にガジェットがこちらを射程に収め、レーザーによる攻撃を開始してきた。


「シールドッ・・・うわっ」

ザシュッ


レーザーをシールドで防ごうとした隊員が、AMFの影響で満足にシールドが張れず足をレーザーで撃ち抜かれる。


「シールドで防ごうとするな!!物陰に隠れて、物理的にかわせっ。」



「隊長、このままでは全滅です。私が、直接攻撃をかけて包囲網に穴を開けます。」

「おい、無茶をするな。応援を待て。」

「大丈夫です、私は『シューティングアーツ』を習得しています。それに、魔力運用の訓練も受けてますから何とかなるはずです。援護は頼みます。」

ローラーブーツで加速して、出口前に陣取る一体のⅠ型にリボルバーナックルを叩きつける。一撃で壊しきれなかったので続いて二撃、三撃と撃ち込み無力化する。一体の破壊に時間がかかり過ぎたため、他のガジェットに接近を許してしまっていた。

アームケーブルを振り回し、こちらにやって来る。

「オラッ」

バシッ

フロントアタッカーの隊員が、デバイスでアームケーブルを叩き落す。

「ありがとうございます、助かりました。」

「なに、どうってことないさ。それより、次いけるか?悔しいが俺のデバイスじゃ、とてもじゃないが本体を破壊するのは無理だ牽制で精一杯だ。」

「分かりました。Ⅰ型なら、何とかなると思いますので援護願います。」


Ⅰ型をさらに数体、倒したところでそれは来た。
自分の前が開けたと思ったら、5メートル程先にⅠ型が浮遊していて今まさにレーザーを撃ち出そうとエネルギーをチャージし終えたところだった。


「ギン「雷徹」ガ!!」

ドッ


後ろで、私たちの援護をしてくれていた隊長の声に他の男の人の声が重なった。




ブシュー ドスン



「「「!!!」」」

誰もが目の前の光景が信じられなかった。
今の今まで、私達が必死になってようやく倒していたガジェットを唯の一撃で壊してしまうなど・・・



「ギンガッ、よけろッ」

あまりのことにボーっとしていた私に仲間から警告が飛ぶ。
後ろから、Ⅰ型のアームケーブルがしなりを打って迫っていた。


ヒュッ

ガンッ ブシュー


後ろに迫っていた、ガジェットはセンサー部分に棒状のモノが突き刺さり機能を停止させられていた。


ガジェットが、工場の床に落ちる音で我に返った私は仲間と合流し新たな乱入者を観察する。 


それは、全身黒尽くめの男だった。
二本の細い剣を操り次々とガジェットを倒していく。

彼の戦い方はうまかった。
ガジェットにはそれぞれAIが組み込まれており、近距離に別個体がある時は同士討ちを避けるためレーザーではなくアームケーブルもしくはベルトで攻撃するようにプログラムされていた。
そこで彼はあえてガジェットに包囲させ攻撃を仕掛ける、ガジェットからの攻撃はスピードと軌道予測をもって回避 しかも、回避運動に一切の無駄がなく一連の流れで行われていた。

まるで、舞を踊っているようだった。

舞の中、彼の攻撃は全て一撃必殺、時に刺し、時に斬り、時に投げ物で打ち倒す。



気がつけば、3分もしないうちに全てのガジェットが倒されていた。



彼が剣を鞘に納めこちらにやって来る。


「本局、嘱託魔導師『不破恭也』であります。救援が遅くなり、申し訳ありませんでした。まもなく、貴隊の応援と救護班が到着するかと思います。念のため工場外に出て、安全な場所で待機を。」

「すまない、救援感謝する。おかげで、何とか死者を出さずに済んだ。」



それから、しばらくして108部隊の他の小隊が何部隊かと救護班が到着した。
けが人を救護班に任せ、現場の後処理を引き継いで私達は隊舎に引き上げた。


デブリーフィングが終了したので、シャワーでも浴びてすっきりしようと廊下を歩いていたら、談話室に先程の彼がいた。
先程のお礼を個人的に言っていなかったことを思い出し、部屋に入る。


軽く自己紹介をして、先程の礼を述べる。
彼の上司と父さんが知り合いらしく、私達が出発した後にあったやりとりで今回の強制捜査の話が出て急遽、彼が応援に駆けつけたらしい。
最初は私に対して敬語で話してくるので戸惑ってしまったが、彼のほうが年上だし階級も上なので普通に話してもらえるようにお願いした。



「でも、不破さんはすごいですね。AMF下で、あんな戦闘ができるなんて・・・」

「まあ俺はどの道『魔法』使えないからAMF下でもあまり関係ないし、むしろ魔法攻撃がない分むしろやりやすい。」

「えっ、使えない?」

「そうだぞ。使えるのは、せいぜい『念話』と『空中の足場』、『魔力コーティング』ぐらいだ。」

言われてみれば、魔法を使った様子は特になかったような・・・でも、あのでたらめな動きは・・・

「で、でも時々すごく速く動いてましたよね。それに、ガジェットの装甲を打ち破るにはそれなりの力がいるはずですよ。」

「あれは、俺の修めている武術の歩方のひとつだ。ガジェットの装甲に関しても、装甲の内側にダメージを徹すことができる技があるし、何よりセンサー部分なんかを突けば無力化は可能さ、必ずしも装甲を抜く必要はない。」

「・・・」

「"『魔法』が使えなきゃ戦えない"じゃ守りたいモノを守れないからな、使えないなら使えないで他の"戦い方"を考えるさ。」

「"戦い方"・・・」

先程の戦闘を思い起こしてみる。
彼の戦闘中のスピードは私のそれよりもむしろ遅いくらいだったし、一撃一撃のパワーも私の方があったようだ。

でも、あの場を支配したのは紛れもなく彼であった。

「目的に応じて変えること。必ずしも"戦って"勝つ必要はない、場合によっては逃げるのもひとつの手さ。戦わずに済むならそれに越したことはないからな。」


その時私は確信した、この人は"強い"と。私の尊敬する、もう一人の女性(ひと)と同じように。





「不破さん、私に"戦い方"を教えて下さい。大切な人達を守る力が欲しいんです。」



「・・・了解した。君ならば、力の使い方を間違えることもあるまい。唯、一つだけ約束してくれ、どんな戦いにおいても最後まで"生きることをあきらめない"と。」










「ギンガ、お客さんだぞ。」
1クール終わったところで、通信が入る。

「お客さんって誰?父さん。」

「おいおい、職場で『父さん』はないだろ。お嬢だ。」



バリアジャケットを解除して、隊舎に戻ると執務官の制服を着たフェイトさんがいた。
私とフェイトさんの出会いは2年前、父さんに面会するために行った空港で火災事故に巻き込まれた際助けてもらって、それ以来何かと面倒をみてもらっている。


フェイトさんはランクS+の空戦魔導師であり、現役の若手執務官である。
超難関の執務官試験に私の年齢になる前に受かっている彼女の非凡さは管理局内部でも抜きん出ていると思う。
そんな、『エリート』にも関わらずそれを鼻にかけることなく誰にでもやさしい性格の彼女はその容姿もあいまって、管理局だけにとどまらず各層各業界ともに人気が高いく、管理局のもう一人の"アイドル"『高町なのは』一等空尉と人気を二分している。

もちろん、キャリアなどの外見的なところや、高い戦闘技術だけでなく自分を常に律することができる内も強い女性(ひと)だということを私は知っている。


だからこそ、私は彼女を敬愛している。

管理局員としても、女としても、一人の人間としても。



「フェイトさん、お久しぶりです。」

「久しぶりね、ギンガ。元気だった?」

「ええ、おかげさまで。今日は、どうしたんですか?」

「ちょっと、今追ってる捜査でこの近くまで来たものだから、顔を出させてもらったの。」


どことなく、覇気がなさそうな様子に少し心配になる。


「そうだったんですか、何かお疲れのようですけど・・・大丈夫ですか?」

「・・・うん、ごめんね。広域指名手配中の次元犯罪者の捜査が行き詰ってて、ちょっとね・・・」

「そうですか・・・、私に協力できることがあればいつでも言って下さい。喜んで、お手伝いさせて頂きます。」

「ありがと、ギンガ。頼りにしてるわ。悪かったわね、あなたの貴重な時間を私の愚痴につき合わせちゃって。」

「いえ、気にしないで下さい。鍛錬していただけですから。」

「そっか・・・。ねえ、ギンガ、もしよかったら私と模擬戦してくれない?最近、体動かしてないし、対人で近接戦闘のできる訓練相手がなかなか捕まらなくって。」





私は再び訓練場に戻り、デバイスを起動してリボルバーナックルを左手に装着、バリアジャケットを展開、ローラーブレードを着けた。

フェイトさんもバルディッシュを起動、バリアジャケット姿になる。


『始め』の合図と共に、一気に間合いを詰めリボルバーナックルに魔力を込め全力で打ち込む、シールドを張られ一瞬前進が止まり、バルディッシュを向けられる

『プラズマスラッシャー』

目の前にいる相手に対し、誘導系はおそらくないと読んでいた私は横に避けず屈むと同時に前に出ることによって回避し、横なぎに右手で相手の軸足を払いにいく。

とっさに後ろに跳んでかわす相手に、屈んで溜め込んでいた力を解放し間合いを詰める。
リボルバーナックルに再度魔力を込め、斜め下から打ち込む。

手数を多くして、相手に距離を取らせず接近戦を挑み続けているが、さすがにクロスレンジからミドルレンジまでそつなくこなす一線級の人だけあって、一撃を入れることができない。

そうこうしているうちに、上空に逃げられてしまう。
こうなると、正直私のような陸戦魔導師は打つ手なしになってしまう。射撃系の魔法を持たない私はなおさらだ。



『プラズマバレット』

上空から誘導弾が降り注いでくる。
《ディフェンサー》を展開し、直撃を避け同時に着弾による目くらまし効果を狙う。


『ウィングロード』

空を飛べない私の、空への翼。この魔法を使えるのは、今のところ私と妹の『スバル』だけ。
でもこの翼、最大の欠点は道筋が見えてしまうこと。


現に、上空の彼女の左斜め上に私の魔力光である紫色の道が伸びている。
結果、彼女はそちらにバルデッィシュを向け駆け上がって来るであろう私に向け魔力をチャージした。


『ソニックムーブ』
『ナックルバンカー』


私が、彼女の真下から拳を突き上げるのと、高速機動魔法でかわされるのはほぼ同時だった。
なぜ、私が真下から攻撃ができたのかそれはいたって簡単先にこれ見よがしに道を示し、遅れて発動させたもう一本の道を使い、"空中"ゆえに完全に死角になる真下から近づいたのである。



バチィッ



どうやら、設置型のバインドで拘束されてしまったようだ。
喉元に、バルディッシュを突きつけられ模擬戦終了となった。





少し汗を掻いたのでシャワーを浴び、談話室でお茶を飲みながら先程の模擬戦を振り返る。

「前に見たときより、また強くなったわねギンガ。最後は、私も予想外だったわ。」

「でも、どうして私が真下から来るって分かったんですか?」

「そうね、気配を感じたって所かしら・・・それで、『ソニックムーブ』で後ろに避けると同時に、とっさに自分がいた位置にバインドを設置したの。」

「気配ですか・・・。」

「うん、"気配"って言うと大げさかもしれないけどなんとなく感じたの。もっとも、シグナムやなのはのお兄さんははっきり感知できるらしいんだけどね。」

「それを探知されないようにしないと、一撃を入れるのは難しそうですね。」

「そんなことないよ。フェイントもうまく入れれるようになってるし、相手の先を読むのもうまくなってるから時間の問題かも。でもなんで急にこんなに強くなったの、何かあった?」

「ええ少し前に知り合った人に、戦い方を教えてもらってるんです。『ウィングロード』の使い方も相談したら、《別に通したからといって"必ず"通らなければいけないというわけじゃない、だったら"おとり"で使うなり"進路妨害手段"として使うなり"本来"の使い方以外を考えれば戦術に幅が出る。それは、君の"武器"になる》って教えてくれたんです。」

「ふーん、そうだったんだ。ギンガ毎日の鍛錬の成果もあるとは思うけど、それにしても短期間でをここまで伸ばせるなんてすごく腕の立つ魔導師なのね。教導隊のなのはが欲しがりそうね。」

「そうですね。でも、魔法はほとんど使えないって言ってましたよ、そもそも魔力量が異常に低くてランクも『陸戦Fランク』で登録されてるそうですし。」

「え、そうなの。」

「ええ、只 魔法は使えなくても充分強いですけどね。私なんて秒殺されちゃいましたし、108部隊でも今の所誰も勝ってないですよ。体術と戦いを組み立てるのが異常にうまいですし、さっきフェィトさんが言ってた『気配』を消すのもうまいので"気付いたら後ろにいた"なんてこともありましたよ。」

「なんだか、化け物じみた人ね。」

「でも悪い人じゃないですよ、何かとやさしいですし。休憩中はお互いの妹自慢をしてますよ。」

「そうなんだ、ギンガはその人のこと好きなんだ。」

「えっ、//// なんで、そうなるんですか。」

「だって、そんな嬉しそうな顔して話してるの初めて見たし。エイミィがクロノこと話してる時と同じだから、違った?」

「フェイトさん、性格変わりました?八神三等陸佐みたいですよ。」

「ふふ、冗談よ。まあ、いろいろがんばってね。」





-数日後-

今日はあの人が稽古をつけてくれる予定だ。
前より、強くなったところを見せて褒めてもらおう。
何か、子供みたいだけどあの人に褒めてもらえると心が温かくなる。

あの人のことを考えるとなんだかドキドキするのはなぜだろう。
年の離れたお兄さんみたいな人、彼にとって私は"教え子"それとも"妹"どうなんだろう?

聞いてみたいような気もするし、聞くのが恐いような気もする。



「あ、恭也さん、こんにちは。ひとつ、質問が・・・」
親の資格出来損ない ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。