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古里 [リリカルなのはss 外伝]

-ある日の高町家-

「いらっしゃい、フェイト。なのはは、ちょうど今駅前まで買い物に出かけたからしばらく戻らないがいいか。」

「あ、あの今日は、なのはじゃなくて桃子さんに相談したいことがあってお邪魔したんです。」

「かーさんに?でも、まだ翠屋にいるんじゃないか、帰ってくるのも閉店してからだろうからもう少し遅くなると思うし。」

「ええ、さっき翠屋さんに寄らせてもらってご都合お伺いしたらこちらで待っていてくれと言われたので。」

「ふむ、まあとりあえずあがってくれ。そのうち、なのはも帰ってくるだろ。」

リビングに通され、お茶をもらう。
二人で適当に世間話をしながら時を過ごす。

ちょうど、今日桃子さんに相談したかったことに関して参考までに恭也さんにも聞いてみることにする。

「あの、恭也さんの6歳頃ってどんな感じの男の子でした?」


唐突な私の質問に驚きながらも、答えてくれた。

その頃は父さんに連れられて、日本全国を武者修行の旅で駈けずり回る日々。
恭也さん曰く、武者修行といえば聞こえはいいが只の破天荒な道場破りの旅だったそうだ。本場の毛ガニが食べたいと北海道に行ったかと思えば、翌日には辛子明太子が食べたいと九州に飛んだり無計画な旅が祟って路銀がつき食料を得るために道場破りをしたり、修行だといって冬山に碌な装備も持たず登頂し凍死しかけたり。
食料は各自現地調達といって、山の中で猪と格闘したり。
その時、まだ父さんは再婚しておらず母親もいなかったため士郎さんが仕事等で出ると必然長期一人になることも多かった。

そんなこんなで破天荒な父を反面教師に妙に落ち着いた子供になってしまっていた。
周りは、『我侭を言わない老成した子』だって言ってくれてたけど、父さんは我侭なかわいげのないガキだってその都度笑ってた。
・・・でも今にして思えば、冬の寒空の下野宿する時に毛布が欲しいって言ったのは我侭じゃないよな。なんせ、あの時父さんは寝袋の上から三枚以上掛けてたんだから。

話が終わる頃には、恭也さんは遠い目をしていた。



壮絶な幼年時代を過ごして来たことは分かったが、年頃の男の子の思想の参考にはならなかった。
私は桃子さんを訪ねた理由を話す。

先日、仕事中に保護した男の子がいてその子とどうやって接していったらいいか悩んでいるというもの。
その子の生まれは特殊で幼い頃の出来事が原因で人間不信に陥っていて、つい先日まで誰も近づけさせようとはせず見境なく魔法で攻撃してくるような有様だった。
繰り返し体を張って説得することによってようやく少し落ち着いてきたが、まだ自分に対して心を開いていないのかどこかよそよそしい態度を取ることがあり少し寂しく感じる。

「私はあの子の家族になってあげたい。本来なら家族から受けられた愛情をあの子に伝えたい、そう思うんです。おこがましいことなのかもしれませんが。」

「フェイト、考え過ぎだ。それは、君の良い所であることに違いないし、深く考えずに突走るあの子には見習って欲しいところではあるが。」

「いいんですかそんな事言って、なのは怒りますよ。」

「あ、いや。今のは忘れてくれると助かる。
その子はおそらく戸惑ってるだけだろう、今までやさしくされた記憶がないからどう接して良いのか分からないだけなんだろう。家族なら相手に余計な遠慮は無用だ、だからフェイトは今まで通り普通に接してやればいいと思う、いつでも受け入れてやれるようにしてその子が進む時を焦らず待てばいい。俺はそう思う。」

「そうですね・・・」

「ふむ、まだ別のところに悩みがあるみたいだな。」

なんで分かっちゃうんだろ、恭也さんには。
もう一つの悩みも打ち明ける。

執務官の仕事をする傍ら身寄りのない子供を保護する私に対して、影で『偽善』だとか、親からの愛情を受けられなかった『代償行為』に過ぎないって言われて自分のしている事が本当に子供達の為になっているかどうかが不安になっている事を。

「フェィト、君は周りを気にし過ぎだ。この場合必要なのは、子供達の意志となにより君がどうしたいかだ外野は関係ない。子供達に選択肢をより多く示す事は決して悪いことではないし、その中から何を選ぶかはその子達の自由だ。『偽善』で結構、何もしないより行動することによって救われる心があるのならそれで充分だ。
自信を持てフェイト、君が今までやってきたことこれからやろうとすること、たとえ誰も肯定してくれなくても少なくとも俺が認める。もしそれが違うと感じたなら全力で止めよう。もっとも、俺以外にも、なのはやはやて、アリサ、すずか達を始めとしてフェィトをよく知る人達はみんな、君を支えてくれるはずだだから存分に頼ればいい。それが友人というものだ。」



そう恭也さんが諭してくれた時、外から猫の鳴き声がした。



縁側に移動すると、三毛と縞柄の子猫がいた。
恭也さんが皿に餌を載せ庭に置く、三毛の子は置くとすぐに食べ始めたが縞柄の子は恭也さんが離れたのを確認してから皿に近づいて来た。

一心不乱に食べる三毛の子に比べ縞柄の子はどこかあたりを警戒しているようだった。

「あの子はどうも人間に虐められたみたいでね、ここに来た時後ろ足に怪我をしてた。
病院に連れて行こうとして、捕まえたときにずいぶん引っ掻かれたよ。今はようやくこうして餌を食べに来る様にはなったんだけどな。」

先に食べ終わった三毛の子が甘えるように恭也さんの足元に擦り寄る。
ヒョイと首筋を持って、膝の上に乗せ背中を撫でる。子猫は気持ちよさそうに目を細めていた。



『コラッ』
恭也さんが突然、縞柄の子を叱った。縞柄の子はビクっとした後、庭の隅に行きしばらくして戻って来て不安げにこちらを見ている。

「どうしたんですか?突然。」

「いやマーキングをしようとしてたから、トイレに行かせただけだよ。あちこちでされるとご近所に迷惑をかけるからね、躾だけはしっかりしとかないと。」

三毛の子を地面に下ろし縞柄の子に向う。
いつでも逃げれる様に後ろに重心を移しながら、様子を窺っている。

「ちゃんとできたな、偉いぞ。」
頭を指で撫でる。最初こそ、ビクっと反応したものの落ち着いてきたのかその場に座り尻尾を軽く振る。
三毛の子が自分も構ってとばかりに、足元を行き来する。


そんな温かい光景を見ていたら、なぜか心が軽くなったような気がした。





「フェイト達は今年で卒業だったな。春からはどうするんだ?」

「ミッドチルダに引っ越して管理局の仕事に就く予定です。」

「そうか、なのはもそう言ってたな。皆がそれぞれの道を歩み始めるのは嬉しい事だが、寂しくなるな。」

「でも休暇には帰って来るつもりですよ。ここはやさしい思い出の詰まった私の故郷の一つですから。」

「ふむ、では帰ってきた時は店にでも顔を出してくれ。お茶ぐらいはご馳走しよう。
何かあっても、何もなくてもいつでも気兼ねせずに来るといい、力になれずとも話を聞くことぐらいは出来るだろうからな。」



私はこの街に来て本当に良かった。大切な友達に巡り合うことも出来たし、私のことを思ってくれる沢山の人達に出会うことが出来た、それは"人"としてとても幸せなこと。
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