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罪滅ぼし [リリカルなのはss 外伝]

先程配信された最重要指名手配犯確保指令の緊急伝達。

まさか彼がという思いと、やはりという思いが交錯し複雑な気分だった。
彼を知る、『特捜課』のあの子達の心中はいかばかりの物か・・・。

私が彼に初めて会ったのは、かれこれ10年以上前、なのはさんがPT事件に巻き込まれた時、彼女の無断外泊の説明に高町家にお邪魔した時。
第一印象はちょっと無愛想な感じのする青年だった。

桃子さんと彼に一通りの説明をした後、桃子さんがお茶のお代わりを淹れに席を立った際。彼は、私にこう言った。

「リンディさん、あなたが何を隠しているのかはあえて問いません。知らないほうがいい事実があることは私も充分わきまえていますし、あなたがそうされたのは母や私、そしてそれを知ることによってなのはに負担がかかると判断されたと思っていますので。」

「どうして、隠し事をしているとお考えですか?」

「私も曲がりなりにも"裏"を知っていますし、私自身が"嘘吐き"ですから。先程のお話、1割が真実、9割が嘘もしくは真実ではない事実といったところじゃないですか。」

「・・・どこまで、ご存知なんですかあなたは?」

「正直、何も。少し前から、なのはが夜中にユーノと出かけて何かをしているのは知っていますがそれが何であるかまでは知りません。」

「にゃにゃ、お兄ちゃん知ってたの?」

「当たり前だ、家の中の気配の移動が分からない様では家族を守ること出来ないからな。」

「理由は問わないんですか?」

「この子にとって、そこまでしてでも成し遂げなければいけない事なんでしょう。
であるなら兄としては信じます、いつか話せる時がきたら話してもらえればそれで構いません。」

「お兄ちゃん・・・」

「なのは、そういうわけで家を空けることは俺は別に反対しない。お前のやりたい事を最後までしっかりやって来い。但し、ちゃんと元気で家に帰って来る事。かーさんや家族を悲しませるような事だけはしないでくれよ。」

「うん。約束する。」

お互いが強い信頼関係で結ばれている兄妹の温かい会話だった。


「では、リンディさん。妹のことをよろしくお願いします。」



二度目に会ったのは、闇の書事件に絡んでなのはさんが守護騎士達に襲撃を受けアースラに回収された時。
事情説明をする傍ら彼の魔力量を測定、結果はほぼ0に近く魔導師としては戦えないというものだった。
その事を知らされた彼は、今後この件になのはさんが関わるかどうかは本人に任せるとし、彼自身は役に立てない以上足手まといにしかならないとして必要以上に関わる気は無い旨を伝えてきた。

その上でベットに横たわる妹をやさしく見やった後で、

「この子の信頼を裏切るような事だけはしないで下さい。」

そう告げる彼の瞳を見た時、私は彼は『己の信念の為なら修羅にもなれる』そんな人だと理解してしまった。

その後、海鳴のマンションに拠点を置いた私達は"ご近所"ということで翠屋にご挨拶に行き、家族単位でのお付き合いをさせてもらうようになった。
この頃から、彼も幾分かフランクな話し方をしてくれるようになった。



最後に彼に会ったのはいつだったか、はっきりと覚えているのは今から9年前なのはさんが帰還途中に襲撃を受けて重態に陥った時。

術後未だ目を覚まさない彼女を傍に、謝罪をする私達に彼は告げた。

『あなた達を責める気はありません。襲撃者を許す気は毛頭ありませんが、あなた達がそれに無関係である以上今回の件に関して責を問うのは筋違いです。あえて責があるとするならば、危険を承知でこの仕事を選んだなのは自身です。』

正直冷たい人だとも思ったし、同時に理性的な判断が出来る大人なのだと私は思っていた。



私は気付けなかった。彼は彼女が傷ついた責任を他の誰でもなく自分自身に求めていた事を。





総務統括官の権限で集めた彼こと『不破恭也』の管理局での遍歴は予想超えた凄まじさだった。
まともな精神の人間であれば何度も自己崩壊を起してしまいそうな事件に多くあたっている。それだけでなく高位魔導師相手の事件においても単独出動しておりどれほど危険を冒していたのかよく分かる。

担当事件の内容を分析すれば、彼の行動の原点にあるものが出会ったあの日からなんら変わっていないのは容易に想像できる。

であるならば、今回のこの事件何か裏がある。
それを暴く事があの心優しい兄妹を巻き込んでしまった私に出来る唯一の罪滅ぼし。

慈悲 [リリカルなのはss 外伝]

その日私は息抜きがてら久しぶりに外出を楽しんでいた。
勿論、半歩後ろには護衛のシャッハが付いてきてくれている。

共同墓地に差し掛かったところそこに一人の人影を見つけた。
全身黒尽くめの男性だった。それだけならなんら不思議な光景ではないのだが、彼の纏う雰囲気が希薄でまるで幽鬼を見ているようだった。


「どうかされましたか?カリム。」

「ええ、あちらの男性どうされたのかと思って。」

シャッハに示した先は管理局の区画で、事件事故で亡くなった無縁仏を埋葬している。主に犯罪者達である。
どうやら、献花と黙祷が終わったらしくその場を離れるようだ。



「私に何か御用でしたか?シスター方。」

「いえ、失礼致しました。なにやら熱心に御参りされていたようなので、失礼ですがあちらには縁者の方が埋葬されていらっしゃるのですか?」

どうやらこちらの視線に気付かれていたようでバツが悪い思いをしながら適当な質問をした私に対し、彼はゆっくり頭を振り答えた。


「私が救えなかった-いや殺した子供達の墓です。」


シャッハがさりげなく私の半歩前に出る。

「それは、どういう意味なんでしょうか?」

「言葉通りの意味ですよ、騎士カリム。私はあの子達の未来を永劫に奪った罪人です。」

「何か事情がおありになったのでしょう。そのようにご自身を貶めれますな。それに罪を認められる方なら償う事も出来る筈です。」

「ありがとうございます。私のような者にまで御慈悲を賜り感謝致します。
ですが私の罪は償いきれるものではありませんし、いましばらく罪を重ねる事になりましょう。
出来れば、あそこに眠る子供達とその兄妹たちの安寧を祈っていただけませんでしょうか。」

「・・・あなたに神の慈悲は不要だと。」



「修羅に堕ちた私にその資格はありません。」

それだけ言って、彼は去っていく。







-数日後時空管理局本局廊下-

「姉君が心配なのは分かりますが、興味本位で視られるのはやめられた方がよろしいかと。アコース査察官。
出身世界に同様のことができる人達がいましたから、対応できるんですよ。それと私のモノに関しては視た者を容易に壊しますので、廃人になりたくないのであれば無理はされない事です。」

出会い [リリカルなのはss 外伝]

私が彼に初めて会ったのはジュエルシードを集めていた時。
時空管理局に捕捉されて、私達を拘束するために来たクロノの魔法攻撃を受け辛くもその場を逃げ切り拠点のマンション近くで倒れていたところを彼に助けられたそうだ。

伝聞形式なのは、その時の事を私自身ははっきりと覚えていないからである。
覚えているのは、薄れゆく意識の中背負われた背中の大きさと温かさだけ。

その時は狼フォームをとっていたアルフによると、彼は気を失った私を背負って部屋まで運び、私の傷の手当をした上で私をベットに寝かしつけてくれたそうだ。

翌日まだ痛む体を起してキッチンに行くと、テーブルの上に一枚のメモとバケット、サラダ、ミニハンバーグ、コンロには鍋にスープとココアが用意されていた。
メモの内容は電話番号以外はその時は分からなかったけれど、なんとなく私の事を心配してくれている事だけは分かった。だから、私はそのメモを折りたたみなくさないように大事にポケットにしまった。
その後、彼は私達を心配して何回か家に足を運んでくれていたようだが直接会う事はなかった。

ジュエルシードの一件が全て片付いて時空管理局に収監される際、彼にお礼を伝えていない事だけが心残りだった。





「あ~こいつ、こいつだよこいつ。」

「どうしたの、アルフ突然」

PT事件の裁判で管理局に収監されている間、海鳴で出来た初めての友達なのはとのビデオメールのやり取りが許され何度目かのメールを受け取ってアルフと一緒に見ていた時、アルフが画面に映る一人の男の人を指差して驚く。

「いや、あの時フェイトとあたしを助けてくれた奴。」

「えっ、ホント。」

画面に映っていたのはなのはのお兄さん、無愛想だけどどこかやさしげな人。
なのはに会いに行く楽しみがまた一つ増えた。会ったら、あの時のお礼を言おう。





その後実際に再会したのはなのはがヴィータ達に襲撃された時、イレギュラーで結界内に残っていた彼がヴィータの攻撃を受け止め反撃しているところだった。魔法を使えないはずなのに相手を圧倒するその闘い方を目の当たりにしてショックを受けた。

気を失ったなのはと共にアースラに来てもらった時に、前に助けてもらったお礼とその時にあった事、自分の出生の秘密を打ち明けた。



「ごめんな、フェイト。力になると書き残して置きながら、肝心な時に何もしてやれなかった。」

「そんな事ありません、恭也さんが助けてくれたから私はなのは達を・・・プレシア母さんを信じられた。」

「そうか、ではもし許してもらえるなら俺の友人になってもらえないか。」

「いいんですか、私は魔道生命体であって人ではないんですよ。」

「フェイト、俺は人を人たらしめているのは心だと思う。誰かを愛しく思ったり、助けたいと思ったり、逆に憎く思ったり複雑な思いを抱けたり、考える事が出来るのが人間だと思う。そういう意味では、今悩んでいるフェイトは立派な"人間"だ。そしてその悩みはフェイトだけの物であって、アリシアのものじゃない。」

「それでも、私は創られたモノなんです。」

「そうして生まれてきた事に何か罪があるのか?
実際俺の友人に君と同じような生まれの人が何人かいる、自分の持てる力を使って他人を助ける仕事をしている彼女達は本当に尊敬できる人だ。
それに俺は友になるのに正直相手が生物学上の"ヒト"であるかどうかは全然気にしていない、機械であれ妖怪であれ心を持ったモノであれば分かり合う事も出来ると思っている。

俺は『フェイト』と友人になりたいんだ。」



嬉しかった私を"私"として見てもらえたことが。
あの時の言葉は今でも私の心の支えになっている。


海鳴に住むようになってから、私は恭也さんに近接戦闘の稽古をつけて貰うようになった。
シグナムに手も足も出なかったのが悔しかったから少しでも強くなってなのはをみんなを守りたかった。

理由を聞いた彼は力の使い方を間違えないようにとだけ忠告した上で色々教えてくれた。
間合いの取り方、力の流し方、闘いの駆引きそれら全てに一切の無駄がなく、その後のシグナムとの戦闘も互角に出来るようになった。



闇の書事件の後もたまに稽古をつけてもらったり、翠屋でお話をしたりした。



それから2年後なのはが重態に陥った時、私達を一切責めることなくむしろなのはを責めたことが私には信じられなかった。
なのはが誰よりも恭也さんに認めてもらいたくて頑張っていたのを知っていたから、そしてそんななのはを恭也さんが誰よりも大切にしている事を知っていたから。

でも今なら分かる、彼は事件の責任を感じて押しつぶされそうになっていた私達を守る為にわざわざあんな言い方をしたと。なのはに責任があるなどとは露ほども思っていなかったはずなのに、そう表現する事でなのはの負担を減らそうしていたと。

中学を卒業して管理局で本格的に働くようになってからあまり会う機会もなくなってしまったけれど、海鳴に帰った時はよく相手をしてもらっていた。





今回の事件
相手を心から思いやれる彼が意味もなく人を殺すとは到底信じられなかった。
だから自分なりの方法で真実を探してみよう。
それが昔私を助けてくれたあの人と、今一番傷付いている親友を助けることにもなると思うから。

2章 外伝 彼の恋愛事情 [リリカルなのはss 外伝]

リビングの隅のほうでリンディ母さんとレティ提督がお酒を飲みながら談笑していた。
二人とも結構飲んでいるようで、顔がほんのり赤い。

今の話題は恭也さんの恋愛事情についてみたいだ。
興味があったので、不自然にならないように装いながら聞き耳を立てる。



「海鳴の方でも、忍さん、那美さん、美由希さん、晶さんにレンさん、フィアッセさん、フィリス先生にあとノエルさん。CSSの人達や国内海外で活躍してる何人かの女性。みんな容姿端麗で性格も悪くないのに、誰とも付き合ってないって話だし。」

「もしかして、彼ほ○?」


思わず飲みかけのサワーを吹き出してしまうところだった。
シグナムがこちらをいぶかしげに見ていたので、適当にごまかす。


「そ、それは無いと思うわ。何せ彼、男友達少ないし周りほとんど女の子ばっかりだから。」

「じゃあなんで。」

「もしかしたら昔、桃子さん達が言ってた『計画』を実行中なのかしら。」


『計画』ってなんだろって思っていたら、同じ疑問を持ったレティ提督が母さんに尋ねていた。

「なによ、その『計画』って。」

「将来有望な女の子に小さい頃から粉をかけて自分好みに育てる『光源氏計画』よ。
なのはさん達がまだ小学生の頃、翠屋で桃子さんと美由希さんが彼が未だに恋人を作らないことに対して出した答えの一つ。もっともそれを聞いていた彼に二人ともあとでお仕置きされてたみたいだけど。」

「なるほど、確かに分からなくもない話ね。」

「そうよね、なのはさんもはやてさんも家の娘も海鳴のアリサさんもすずかさんも本当に美人になったし。この中の誰かを狙ってるのかしらね。」


え、すずかもなの?アリサが恭也さんを好きなのは前から知ってたけど、すずかはどうなんだろ。あんまり表にださないから・・・でも確かに恭也さんの前だと私達の前では見せないような笑顔見せてたからそうなのかも。


「でも、なのはさんはまずいでしょ。社会道徳的な意味で。」

「でも、桃子さんあたりだったら喜んで許可しそうなんだけどね。お互いがよければOKって。禁断の兄妹愛なんか淫靡な響きね。」


私もそう思ってしまった。桃子さんだったら、あの人だったらやりかねない。


「でも彼が誰を選ぶにしてもひと騒動起きそうね。」

「そうね、海鳴にいる人達もそうだけどミッドにも彼に好意を寄せてる娘が多いからね。はやてさんはどちらかって言うと敬愛の感情みたいだし、ヴォルケンリッターの娘達は信頼できる仲間って言う捉え方みたいだけど、なのはさん、フェイト、ギンガは確実だし、最近だと騎士カリムやティアナの辺も怪しいのよね。」


うぅ~ライバルが増えてる。


「彼を巡る争いでも起きたら、ミッドごと吹き飛びそうね。」

「リアルに想像できて嫌な光景ねそれは。」

「でも今のところ、彼が誰かにアプローチかけた形跡ってないわよね。」



「・・・はっ、まさかッ」


どうしたんだろう母さん、突然固まって。



「どうしたのリンディ。」

「もしかしたら彼、ロ○コンかもしれない。それなら、ヴィヴィオの可愛がり様も説明がつくわ。」


ブッ ゴホッゴホッ 派手にむせた。
シグナム、はやてがこちらを見ている。あ、まずい、はやてが『面白いもの見つけた』的な表情になってる何とかごまかさないと。





「何を馬鹿な事を言ってるんですか、リンディさん。俺はノーマルですよ。」


席を外していた恭也さんが戻ってきて、呆れたように返す。
その後ろには、なのはが苦笑いしながら立っていた。


「じゃあなんで、誰とも付き合おうとしないのよ。」

「こんな面白みのない男を好きになってくれるような女性はいませんよ。
それに先ほど出た人達は皆大切な親友であり家族ですよ。それに皆本当に綺麗で心優しい女性ばかりです、むしろ彼女達に恋人がいない事の方が不思議なんですがね、男だったら惹かれて当然だと思うのですが。」

《《・・・・・(あなたのせいよ)》》
《お兄ちゃんのせいだよ》
《恭也さんのせいだと思います》



キュピーン

あ、母さんが何か悪戯を思いついたようだ。目が怪しく輝く。



「ねえ、恭也さん。だったら、私と付き合ってみない。でもやっぱり40過ぎで薹が立ったようなおばさんは嫌かしら。」

「そんな事ありませんよ、お二人ともまだまだお若いですしお綺麗ですよ。むしろ俺では釣り合いが取れません。」




「「////」」


年齢を重ねて、大人の色気も混じってきた恭也さんの必殺スマイル。
間近でにっこり微笑まれて二人は茹蛸のように真っ赤になる。


《グリフィスももう一人立ちしたから、自分の幸せ追っても問題ないわよね。》

《クライドさんごめんなさい。わたし、新しい恋を見つけました。》


あ、母さんまで落ちた。

目の前の二人の様子が理解できず、ぼうっとしている恭也さんになのはが憮然として言う。




「お兄ちゃん、節操なさ過ぎです。」



私も激しく同意。

2章 外伝 父 [リリカルなのはss 外伝]

「お兄ちゃん、そういえば霊力を扱うようになったきっかけてなんだったの。海鳴で何かあったのは聞いたけど。」

「ふむ、あまり面白い話ではないがそれでもいいか?」

そう前置きした上でお兄ちゃんは話し始める。





なのはが小学四年生になったある春の日 

街に嫌な気配を感じ取って気配の元の廃ビルにいくと、手に龍の刺青をした男達が数名とフードを目深に被った男が一人いた。

《龍》

かつて御神一族を暗殺した組織、美沙斗さんが追っている一族の仇。

そいつらがここにいるという事はまた家族に危害が及ぶ可能性があるということだ、それだけはそれだけはさせまいと決意し『八景』を抜き、制圧すべく柱の影から飛針を投擲する。

男達の錬度は大して高くなかったようで、接近する飛翔物に対して有効な対応ができていなかった。
これで終わりかと思われた瞬間、横合いから全く同じ得物で全て迎撃された。


その段になって襲撃に気付いたのか、男達が懐から拳銃を取り出しあたりを警戒しだす。


背後に突然大きなプレッシャーを感じ横に飛びのく。
今までいた処に一刀の小太刀が振り下ろされていた。

驚く間もなく、その小太刀が突きの形で眼前に迫る。加えて、男達も銃口をこちらに向け引き金に指を掛けていた。

《神速》

状況を打破するため奥義を発動、射線をずらし一番の難敵である剣士の相手をしようとして驚愕する。
神速のモノクロの世界の中、相手も同じように動いていたのだ。



「父さん!!」

神速が解け視界に色が戻る。黒い仕事着を着、小太刀を二刀携えた男は確かに父だった。

返ってきた答えは斬撃、相変わらず重い物だったなんとか受け止めるが、今度は蹴りがきた。たまらず距離を取り、束縛するために鋼糸を飛針と混ぜて投擲するが、飛針は剣で弾かれ、鋼糸は同じく鋼糸で絡め取られる。

何度か打ち合いながら、呼びかけるも父さんに反応はなく後ろからは男達の銃弾が絶え間なく飛んでくる。

「父さん、なんでここにいるんだッ。なんで奴らに協力してるんだよ。」



「ふっはははは・・・無駄だ無駄だ、その男は所詮"死人"だ。術によって死体のまま蘇った人間なのさ。痛みも感じなければ、心臓を貫かれても死ぬこともない、自我を持たない我らに忠実な戦闘人形だ。」

男達のリーダーが吼える。



《御神流奥義の六 薙旋》

《御神流奥義の五 花菱》


奥義を打ち合うが、有効打を与える事ができず左腕に一太刀受ける。


《御神流奥義の壱 虎切》

父さんの得意技が来る。
父さん父さんがいなくなった後、みんなを守る為必死に努力したんだその答えをここで見せるよ。

《御神流奥義の極み 閃 》


「父さん目を覚ましてくれ。」

四肢を切りつけ腱を全て絶つ。


「無駄だといっているだろうに、痛覚などなくなっているそのような攻撃全くの無意・・・・ ドサッ

わめいていた男は途中で眉間に飛針をうけ倒れる。
他の男達も同様の運命をたどっていた。




「って、痛っな~恭也。父親に向って容赦ないな、この馬鹿息子ッ」

「当たり前だ、油断する父さんが悪い。」

「ありゃ、油断してなくても喰らうぞ普通。ほんと、強くなったな恭也。」

「まだまだよ、父さんには敵わない。」

「当ったり前だ。俺に勝とうなんぞ100年早い。」

「そうだな追いつくのはまだまだ先になりそうだよ。それはそうと母さん達には会っていかないのか?」

「馬鹿かお前は、桃子やなのははお前と違って繊細なんだよ。死んだ俺が出て行ったら失神しちまうだろうが。それに術者を殺したんだもう長くはいられない。」

「・・・・・・」

「みんな元気にしてるか?」

「ああ、父さんが亡くなってすぐはみんな酷い状態だったけど今は大丈夫だ。なのはも夢を見つけて羽ばたきだしたよ。父さんのように誰かを守れるようになりたいそうだ。」

「そうか・・・桃子やなのはのことを頼んだぞ、俺の替わりにあいつらを守ってやってくれ、恭也。」

「美由希はいいのか?父さん。」

「う~ん、美由希には美沙斗がついてるから大丈夫だろ。それよりもなのはに悪い虫がつかないように気をつけろよ、あの子は可愛いからな男共が群がってくるだろうから蹴散らせよ。なのはと付き合うには最低限お前を倒す事が条件だ。」

「なのはが選んだ男なら間違いは無いと思うがな。」

「甘い、甘いぞ、恭也。男って奴は、言葉巧みに近付いて毒牙にかけるような生き物なんだ。なのははお前と違って素直な子だから騙されやすいんだ。」

「まあ、素直なのと騙されやすいことには同意するがな。」

「む~心配でおちおち眠れなくなってきたな。」



父さんの体が光りだす、時間が来たようだ。



「こっちの事は心配せずに、ゆっくり休んでいてくれ。しばらくしたら俺も遊びに行くから、それまで待っててくれ父さん。」

「嫌なこった、お前がくると女を一人締めされるからな。当分の間来なくていいぞ、というか来るな。」

「・・・」

「じゃあな、恭也。頑張れよ、自慢の息子よ。」




眩い光と共に消えていき、そこには砂の山だけが残っていた。








「霊力攻撃を受けたわけでもないのに、自力で自我を取り戻したんだからまさしくあの人は化け物だな。」

しみじみと呟くお兄ちゃんに、あなたも同類ですと思ったのは私だけの秘密です。


でもお父さん心配し過ぎです。"いい人"は自分でちゃんと見つけます。それに、お兄ちゃんに勝てる人なんているのかな?いなかったら・・・お兄ちゃんに責任とってもらおうかな。

2章 外伝 騎士と剣士の誇り [リリカルなのはss 外伝]

本局を所用で訪れたヴァイス曹長と、食堂でコーヒーを飲みながら皆で久しぶりの談話をする。
今ここにいるの特捜課メンバーはあたし、ティア、シグナムさん。

ヴァイス曹長も恭也さんと何度か仕事をしたことがあるようで、あの人の人外っぷりはよく知っているようだ。

「なのはさんやフェィトさんが"エース"で、お前達が"ストライカー"とするなら恭也の旦那はさしずめ『最強の手札』"ジョーカー"といったところか?」

「しかし手札の切り方を間違えれば、それは最強たりえない。下手をすれば自らがダメージを受ける。」

「恭也さんを最強の手札にするには、彼を使いこなす指揮官がいるということですか?」

「おそらくそれは誰にもできないだろう。彼はいうなれば野生の獣だ。誰にも手なずけることができない『孤高の虎』といったところか。」

「なんだか使えそうで使えないカードのような気がしますけど。」

「そうでもないさ、基本スペックが異様に高いからそれだけで相手にとっては充分に脅威だし味方にいてこれほど頼れる戦力はない。
逆に敵にまわった時はこれほど厄介な相手はいないぞ、一度戦場で刃を交えた事があるが二度と前に立ちたくないと思ったものだ。彼は自らの敵と認識したモノに対しては決して容赦しないからな。」

「えっシグナム姐さん、旦那と闘ったことあるんすか。」

「ああ一度だけな、なのはに蒐集をかけた際結界内にイレギュラーで残っていた彼とな。その時彼は魔法など一切使えなかったにも拘らず手負いだったとはいえヴィータと互角に渡り合い、最終的には私も為すすべなく吹き飛ばされたんだ、プログラム体である私がその時初めて"死"の恐怖というものを知った瞬間でもあったな。」

「ははは・・・なんだか誰がどうやっても勝てそうにないんですけど・・・。」

「そんなことないよ、スバル。」

「フェイトさん、それになのはさんも。」

「恭也さんは、クロスレンジに特化してるからね。ミドルレンジは飛針か鋼糸くらいしか攻撃手段がないし、ロングレンジに至っては皆無、だからロングレンジ、もしくはアウトレンジから攻撃をすればいいの。」

「でもフェイトさん、恭也さんの攻撃回避能力って生半可じゃないですよ。」

「そう、だから回避不能な攻撃をすればいいの。昔ね恭也さんに稽古をつけて貰ってた時聞いたんだ、なにをやっても勝てる気がしないんですけどって。そうしたら笑いながらねこう言ったの、
『遠くから周りの被害を無視して広域殲滅の魔法をぶち込めば終わるぞ、俺はフェイト達と違って空を飛べるわけでもなければ、シールドやバリアを張れるわけでもないからな。まあ、負けないようにするだけなら俺の接近を許さなければいいだけだ。基本俺は剣士だからな、『剣の届くところに近付いて斬る』が戦術なわけだから弾幕を張るなりして常に距離を取れば"負けはしない"だろ。』って。」

「シグナム姐さんの同類がいた・・・」

ヴァイス曹長が苦笑いしてる。

「確かにお兄ちゃんの言う通りなんだけどね、その状況に持っていくのがそもそも至難の業なんだよね。隠匿技術が高いから居場所を特定するのも一苦労だし、そもそも殲滅魔法使えるような空間が限られてくるからそこに誘い出す必要があるし、大規模魔法はどうしてもチャージに時間が掛かるからその間に接近されたり、逃げられたりするから。そうなると後は隙をついて一撃を入れるぐらいなんだけど。」

「確かに恭也に隙を見つけるのは至難の業だな。」

「その事に関して私となのはでコンビを組んで2対1で模擬戦してもらっている最中に言われたんだ。『隙が無いなら作ればいい』って、どうすればいいんですかって聞いたら、私達の攻撃を軽くいなしながら『言葉の通じる相手なら話術で気を逸らすのも一つだ』って教えてくれたの。」





カン カン ガン ドッ


私がクロスレンジで仕掛け、なのはがミドルレンジで援護射撃をかける。


「アクセルシュー・・・「なのは、スカートがめくれてるぞ。」タ」


「えっええ~ (ズビシッ) 痛っ~」

恭也さんの一言になのはは集中を乱し集めていた魔力を霧散させてしまう、動きが止まったところででこピンを貰う。

「なのは、大丈夫!?」

「う~お兄ちゃんの嘘吐き。」

「失礼なこれも勝負の駆け引きだ。ほら、続けるぞ。」



私が恭也さんとバルディッシュで鍔迫り合いをしていると、なのはが何か思いついたのかもじもじしながら叫ぶ。



お兄ちゃん、大好きっ!!


「・・・・・・」


「ああ、俺も好きだぞ なのは。」


「(////)」

照れた様子も無く真顔で返されて真っ赤になって固まるなのは。
突然のなのはの告白に動きが止まってしまった私と一緒に撃墜された。


恭也さんの方が一枚も二枚も上手だった。





「なんか、えげつないっすね旦那。」

「そうでもないだろう、戦いにおいてブラフは有効な戦術の一つだ。」

「へえ~意外すっね、シグナム姐さんなら『騎士の誇り』とやらでそういったのは好まないかと思ったんですが。」

「うむ もちろん私には『騎士』としての『誇り』があり、不意打ちではなく正面から打ち勝つことを好しとしているのは事実だ。しかし、恭也の『誇り』は『大切なモノを守り通す』という一点に集約されているからな、そのためなら彼は手段を選ばないだろうし、自分を犠牲にする事もいとわないだろう。要は『誇り』の在りどころの違いであって、それに好むと好まざるとは関係ないな、彼も己の誇りに命を懸ける立派な『騎士』だからな。」

2章 外伝 恋せよ乙女 [リリカルなのはss 外伝]

今は家族揃って朝食中。
ご飯と味噌汁におかずの和食だ。ナカジマ家に引き取られてから、家族で食卓を囲む楽しさを知った。

「そういえばギン姉、今日も恭也のところ行くのかよ?」

ノーヴェが卵焼きを頬張りながら尋ねる。
恭也がそのまま108隊にしばらくいる事になり、今は隊員用の単身宿舎に引越して来ていた。
事件が解決してここ4日ほどギン姉は毎日、恭也の部屋に夕食を作りに行っていた。

「ええ、そのつもりよ。恭也さん、疲れてるみたいだし雫ちゃんにもしっかり栄養取れる物食べさせてあげたいしね。」

「別に毎日行く必要なんてねえんじゃないのか、あいつだって自炊ぐらいできるだろ。そこまで甲斐甲斐しく世話焼かなくたってよ。」

「え~と そういうのなんて言ったスか・・・ "幼妻"?」

ブゥー

あ、お父さんが味噌汁噴きだした。
ノーヴェが汚いって怒ってる。

「ウェンディ、それを言うなら"通い妻"だ。」

チンク姉がウェンディの間違いを正す、さすが博識だ。
ギン姉は真っ赤になって固まっている。





「と、とにかく、今日も遅くなるから先に食べておいて。」

ウェンディとチンクの爆弾発言から何とか復活した私は、ごまかしながら食器を下げる。
それにしてもあの子達"あんな"知識どこで覚えたんだろう、昼ドラかしら。





-勤務終了後-
「こんばんは、恭也さん、雫ちゃん」

「いらっしゃい、ギンガ。」
「こんばんは、ギンガさん。」

恭也さん達の宿舎は単身用なのでキッチンとリビング一室と、寝室だけの簡素なものだ。
今日も家から持ってきた食材を出し、早速調理にかかる。

雫ちゃんが汁物の準備を手伝ってくれる。恭也さんはリビングでテーブルの用意をしていた。
なんだかいいな、こうしていると昔母さんのお手伝いをして台所に立っていた頃を思い出す。

今日のメニューは、炊き立ての白いご飯、大根とわかめの味噌汁、焼き魚とほうれん草のお浸し。あと何品かの付け合わせ。和贔屓の恭也さんにあわせて和食にした。

せっかくだからということでご相伴に預かる。

「うむ、うまいな。」
「すごくおいしいです。ありがとうございます、ギンガさん。」

「いえいえ、どういたしまして。」

「これだけ、料理がうまければいい奥さんになれるんじゃないか?」

「(////)」

朝方、妹達に言われていたことを思い出して思わず真っ赤になる。

「お父様、その言い方は失礼ですよ。」

「ふむ、そうだな。ギンガは料理がうまいだけではなく、器量も心根も申し分ないものな。」





いま、私はナカジマ家に帰る途中だ。とはいっても隊員宿舎から歩いて5分程のところだが。
そして私の隣には恭也さんがいる。『夜道の女性の一人歩きは危険だから送っていこう』とついて来てくれたのだ。
最初、すぐ近くだしわざわざ悪いので断ると『ギンガはもう少し自分の魅力を理解した方がいいぞ、男からみて充分魅力的なんだからな』と諭してくれた。『それに君にもしもの事があったら、ゲンヤさん、クイントさん、スバル、フェィト達に申し訳が立たないからな、下手すりゃ殺される。』とおどけられた。


「毎日、すまないな。家の方はいいのか?ゲンヤさんほかりっ放しで・・・それに、ウェンディ達も。」

「大丈夫ですよ、あの子達も家事できるようになりましたし、父さんも一人は慣れてますから。それとも、迷惑でした?お伺いするの・・・」

これで迷惑だって言われたらショックだな。

「そんな事は無いさ、俺も雫も助かってるし何より皆で食卓を囲むのは楽しいからな。ただ、ギンガにお世話になりっ放しで申し訳ないなと。」

「そんな、気にしないで下さい。私が好きでやってるだけですし、恭也さんには何かとお世話になってますので。」

「いや、しかしな・・・」

「う~ん じゃあ次の非番の日、買い物に付き合ってもらえませんか。」

「それぐらいでいいなら、喜んで付き合うぞ。荷物持ちぐらいはできるからな。」

「はい、お願いしますね。楽しみにしています。」

そんな話をしていたら、もう家の前に着いていた。
別れが名残惜しいような気もするが明日にはまた会えるし、デ、デート(///)の約束もできたから笑顔でお別れしよう。

「お休み、ギンガ。ゲンヤさんと皆に宜しく。」

「はい、お休みなさい恭也さん。」

2章 外伝 守る力 [リリカルなのはss 外伝]

お父様に引き取られた後、私は闘い方を教えて欲しいとお願いした。
自分を助けてくれた人達を守れる力が欲しかったから。

お父様は少し考えてから、私の目を見て真摯に告げる。

「俺の剣は力は常に他の誰かを傷つけるものだ。」

「お父様、でもそれは誰かを守る為ですよね。」

「そうだ、守る為に力を振るっている。だがそれを理由に力を行使する事を正当化してはならない。それをしてしまったら、正義という名の殺戮を肯定してしまう事になる。どんな理由があれ、俺の振るう力の本質は暴力であり決して誇れるモノではないんだ。」

「・・・・・・」

「誰かを守る為に強さを求める事は悪い事じゃない。その強さは何も戦闘力である必要はないし、むしろ戦闘で守れるのは物理的なものだけだから当然限界もある、それでも雫が戦闘技術という力が欲しいなら父の言ったことを忘れないで欲しい。」

「・・・・・・それでも私は、大切な人達を守る力が欲しいんです。」

「そうか、ではお前に俺のもてる全てをもって教えよう。お前が自分自身とお前の守りたい人達を守れる様に。雫、力を誇る事はできなくても、守り通したその結果は誇りに思っていい。」

そういって、微笑みながら頭を撫でてくれる。

「それとな"強き者"を目指すなら、父ではなくなのは達を目指すといい。」

「なぜですか、お父様。」

「彼女達こそ本当の"強さ"を持っているからだ。
俺は一人を犠牲にして千人を助けられるなら、一人を斬る。だがもしその一人が自分の大切な人なら、迷わず千人を斬る。俺はそんな身勝手な生き方しかできない男だ。一人の為に数多を犠牲にするか、逆に数多の命の為に一人を犠牲にするか、この質問の答えに正解など無いのだろうなどちらもが正解でどちらもが間違っている。それぞれの正義・・・そういうことなんだろう。
だが、あの子達は違った、第三の答えを導き出した。
1000を救うでもなく、1を救うでもなく、1001を救う方法を。確かにそれは理想的な解答、でもそれは誰もがあきらめる"夢物語"。それでもあの子達は"夢物語"をあきらめることなく現実のものにした。
それこそがあの子達の"強さ"、決して最後まであきらめないという。」

そんなふうに言ってはいるが、お父様がいつも最後まで最善を尽くしているのは私が一番よく知っている。
そんなお父様がいてくれたからこそ、私は今ここにいられるのだから。







教会の事件が解決した数日後、家に帰るとお父様が難しい顔をして私をリビングに呼ぶ。

「雫、最近学院で無茶な鍛錬を繰り返してるみたいだな。ヴィヴィオが心配してメールを送ってきたぞ。」

「・・・・・・」

「ヴィヴィオを守れなかったからか・・・自分がもっと強ければと・・・」

図星だった、あの時私がもっとうまく立ち回れていたらあの子にあんな辛い思いをさせる事は無かった。
それが悔しくて、強くなければ誰も守れないと思った。

「本当にお前もなのはも真似をしなくていい所ばかり真似をするな。」

『ふぅー』と溜息を吐きながら右のズボンを膝までまくる。
お父様の全身に傷跡があるのは知っていたが、右膝の傷は今まで見た中でも一番酷かった。

「お父様、その傷。」

「ああ昔な、性急に強さを求めた代償だ。」


ゆっくりと諭すように、その時のことを話してくれる。


俺が今の雫と同じ年の頃、父さんが仕事で亡くなった。
母さんや、生まれてきたなのはを守る力が欲しくて毎日がむしゃらに鍛錬を続けた。そんなある日、いつもだったら避けれるはずの暴走車に撥ねられて膝を壊したんだ。松葉杖なしでは歩けないだろうって診断されて、剣士の道が閉ざされて自暴自棄になったよ。家族にも負担をかけたしな。幸い周りの心優しい人達のお蔭で今はほぼ完治しているが、剣士として道を極めることはやはり難しい。

なのはも無理をし過ぎて結果重態に陥ったことがある。
その時、俺は自分を呪ったがな。なぜ気付いてやれなかったのかと。





「雫、焦らなくていい。ゆっくり強くなっていけばいい。
お前が強くなって、自分自身とお前の大切な人達を守れるようになるまでは父がお前達を守ろう。
だから約束してくれ、無茶をして周りを悲しませないと。」

「・・・はい。お父様、心配かけてすみませんでした。」

「なに、父親が娘の事を心配するのは当然だ。それよりも、いい友達を持ったな雫。」

「ええ。ヴィヴィオは本当に優しい子です。」

2章 外伝 不器用 [リリカルなのはss 外伝]

「よう、管理局アイドル部隊。久しぶりだな、調子はどうだ。」

軽い挨拶と共に特捜課のオフィスにやって来たのは、武装9課のソニア提督だった。
正直、あたしはこの人が苦手だ。

「お久しぶりです、ソニア提督。その節はお世話になりました、おかげさまでぼちぼちやってます。今日はどうされたんですか。」

八神課長が苦笑いしながら、返答する。

「なに、恭也と雫の様子を聞きにきただけだ。先日の一件で会ったんだろ。」

「ええ、二人とも元気でしたよ。恭也さんは相変わらずの人外っぷりでしたけど。」

「息災で何よりといったところか。無茶は相変わらずみたいだけどな、奴一人でたいていの事件は片が付くからな。」



スバルが恐る恐るといった感でソニア提督に尋ねる。

「あの~恭也さんってJS事件の時ってどうされてたんですか?」

その質問に対して、ソニア提督は沈痛な面持ちで答えた。

「それは、できたら恭也には聞くなよ。奴も相当辛い思いをしたんだからな。」

ソニア提督の話によると、公開意見陳述会の日 彼は本局の独房の中にいた。
武装9課の参加作戦の制圧方法を巡って禁錮刑を受けちょうど最終日を迎えたところだった。独房の中で機動6課が襲撃を受けた事を聞いた彼は歯を喰いしばり拳を握り締めやり場の無い怒りを壁に打ち付けたそうだ。
その怒りは誰に向けたものだったのか、おそらくそれはなのはさん達を守る為に裏に徹し修羅に堕ち数多の命を奪ってきたのに肝心な時に助けに行けない自身の不甲斐なさに向けられたものだったのではないだろうか。

1週間後、ゆりかごが発進した際。彼と武装9課はミッドチルダ東部の森林地帯の一画にあった地下の隠し工場でガジェットと戦闘を行っていたそうだ。当時司令室では確認されていなかったがそこはスカリエッティがゆりかごの護衛と地上本部襲撃の増援に用意したⅢ型を中心とした800体近いガジェトが集結していた。高濃度AMF下まさしく鬼神の如くほとんど彼一人で殲滅したそうである。

もし彼がおらず、その800体が応援に来ていたらと思うと背筋が寒くなった。



「そっか、お兄ちゃん。あの時、助けてくれたんだ。」

「高町の嬢ちゃん、あの時"も"の間違いだ。奴は幾度と無く、お前達を影から助けてる。」

「それは、どういう意味でしょうか?」

ソニア提督の含みある言い方にフェイトさんが質問する。

「そのままの意味さ、お前さん達はある意味管理局の力の象徴だからね、反管理局の連中の格好の的なのさ。暗殺対象として管理局上層部よりも、現場に出ているお前さん達の方がテロリスト共にとっては狙いやすいのも事実だがな。そんなテロ案件を事前に察知して、秘密裏に処理してたのが奴なんだよ。そのうち、犯罪者連中の間で奴に二つ名がつけられた。『白い悪魔』に対抗して『黒い死神』ってのがな。」

「「「・・・・・・」」」

今まで、自分達がテロの標的になっていたとは思っていなかったようでなのはさん達は返す言葉が無いようだ。



「こら、そこの二人。自分達は関係ありませんって顔してるんじゃねえぞッ。」

いきなり、ソニア提督にスバルと一緒に注意された。

「お前らだって、JS事件後注目浴びて有名人になってるんだ、その辺自覚しとけ。特にランスター、お前甘すぎだ。」

「はっ、どこがでしょうか?」

「犯人確保する際に、銃を突きつけるなんぞ何考えてやがる。抵抗された際、速射して息の根を止めるつもりも無いなら拘束としては全くの無意味だ。試合してるんじゃねえんだからな、まあ先日の一件で懲りただろうが、執務官を目指すつもりなら単独で確実に捕縛できるようにしとけ。」

「・・・・・・」

先日の研究室での光景を思い出して、少し青ざめる。



なにやら思うところがあったのかソニア提督がお説教モードに入る。

お前ら全員甘すぎ、いつでも警告なしに撃てとは言わないが明らかに害意を持って敵対行為を働いてくる相手に口上をわざわざ述べるか?問答無用で叩きのめせよな、それと相手の容姿にいちいち惑わされるな、子供だって強い奴はいくらでもいる。

それから、相手の言う事を真に受けていちいち付き合うなある程度の注意で充分だ。さらにそれが不自然な動きだったらまず罠を疑い警戒を怠るな、同時に相手が何をしたいのか予想して対応策をねろ。

予想外の奇襲を受けたとしても、取り乱すな。仲間を信頼して各自が連携して己の仕事しろ、一度やられた後に何も手を打たずに相手の次の手を待つな。

流石に隊長陣にはそこまでの油断は無かったようだが、八神、今度部隊を立ち上げるならオペレータ陣にも最後まで気を抜くなとしっかり教育しとけ。必殺の攻撃だとしても当たらなければ意味を成さないし、通じない相手だっている浮かれて敵を見失いましたでは前線はたまったものじゃない。

まあ、電子の目に頼りすぎなのは管理局全体に言えることではあるんだがな。

大体、能力保有制限なんぞ馬鹿げた事まじめに提案するような組織なんぞ腐ってるぞ。
自分で手足縛ってどうするんだ、肝心な時にすぐに力が使えなくて死んでたら世話無いぞ。力の抑制なんぞ、力持つ者の責任において本人が自制すりゃいいことだ。



なんだか最後の方は管理局に対する愚痴になっていたけど、言ってることももっともだったので誰も反論できない。



「ご忠告ありがとうございます、ソニア提督。ですが、私の教え子達は甘いだけではありませんしっかりと最後まで任務をこなせるだけの実力と意志の強さを持っています。それに、私は管理局を、この局で働く仲間達を信じています。弱き者を助ける為に集った人達だと。」

「今までが"運がよかった"だけじゃないのか。」

ソニア提督がなのはさんに皮肉気に返す。

「そうかもしれません、でも『運も実力の内』ですから。」



「くっはっはははっ、やっぱお前達は面白いわ。ここまで言われても、考えを変えない、相当な頑固者だな。」

ソニア提督はニヤッと笑って、近くのデスクのコンセントケースをいじる。
中から取り出した、小さな黒い塊を口元に近付け囁く。

「今聴いたとおりだ、こいつらはあたしらの仲間にはならないそうだ安心しろ、この出歯亀野郎。」

指に魔力を込め、塊に流す。塊がプシューと音を立て、煙を上げる。





「ソニア提督、それは・・・」

「う~ん、知らなかったのか?お前等のオフィスが用意された時点で仕掛けられてたぞ、盗聴器。本局の一部の馬鹿共が自分達の障害になりそうな奴等の情報を集めるために仕掛けてるのさ。一部、特務機動隊に通じてた奴もいたな。」

「では、今までのここでの会話は筒抜けだったということですか?」

「そういうこと、だから昨日誰と寝ただとか誰が好みだとかの話もデータベース化されてるだろうな。」

「そ、そないなことは話してません。」

なのはさん、フェイトさんの質問にソニア提督が答え、八神課長が慌てながら否定する。

「うぶだね~この程度で真っ赤になるなんて、そうするとせいぜいあたしらの悪口くらいか・・・」

「「「・・・・・・」」」

あたし、スバルがバツの悪い顔をし、ヴィータさんが顔を逸らす。

「図星みたいだな、お前らホント分かりやすいな。本当に恭也の知り合いか?あいつだったら真顔で平気に嘘つくぞ。別に怒っちゃいねえよ、いつもの事だ。」

「「すみません。」」

「素直でいいね、私が10年以上前に捨てた謙虚さだ、大事にしてきな。それはきっとお前達の財産になる。」



自分の言いたい事だけ言って特捜課のオフィスを出て行った、ソニア提督。
正直苦手なのは変わらないけど、彼女もまた不器用な優しさを持っている事が分かった。彼と同じように。

2章 外伝 過ぎ去りし青春 [リリカルなのはss 外伝]

「お兄ちゃんが襲われたってホント!?」

出先で通信を受けて、慌てて特捜課のオフィスに駆け込むと中にははやてちゃん、フェィトちゃん、シグナムさん、シャマル先生がいた。

「なのはちゃん、落ち着いてや。襲われたんは事実やけど、怪我一つしてへんで大丈夫や。」

はやてちゃんの話によると、お兄ちゃんが戦技教導で呼ばれて行った部隊の隊舎の廊下で局員にいきなりナイフで襲い掛かられたが、こともなげに取り押さえたそうである。

お兄ちゃん曰く、『あれだけ殺気をばら撒いてたらサルでも分かる』だそうだ。



「でも、どうして襲われたんだろ?」



私の頭に先日ソニア提督から聞かされた話が掠める。
『恭也の存在を疎ましく思っている連中がいる』というものだった。詳しく聴いてみると、大した魔力もないのに高位魔導師を圧倒する戦闘力を脅威に感じている幹部が何人かいるとのことだった。
魔力の大きい者に関してはデバイスや本人に能力リミッターをかけることで一応の安全装置としているが、お兄ちゃんの場合は純粋に体術なのでまさかウェイトをつけさせるわけにもいかず制約のかけようがないのだ。
先日の特務機動隊事件後、体内に小型発信機を埋め込むか、例の子供達に使われていたような遠隔爆弾を埋め込むという話まで出たようだが流石にそれは却下されたそうだ。

今まではずっと裏で活動していたのであまり目立っていなかったが、ここ最近表で活躍して目立ったことによりお兄ちゃんを危険視する向きが一層厳しくなっているとのことだった。

ソニア提督が危惧していたのは、合法的に葬られることだった。
というのも連続で任務に当たらせ疲弊している状態で、危険度Sの任務につかせることによって殉職させる。もしくは模擬訓練中の事故を装って闇に葬る可能性がある。

ただ一点救いがあるとすれば、先日お兄ちゃんが聖王教会の名誉騎士資格を得た事だ。
聖王教会という後ろ盾を得たことによって、管理局幹部も直接的な排除はしにくくなったとのことだ、ただし嫌がらせ的な圧力は今も続いているそうだが。

『騎士カリムに感謝だ』とソニア提督は言っていた、というのもいくら聖王を救出するという偉業を成し遂げたにせよ、お兄ちゃんが"前科者"たる事実は消えるものではなくその人間に名誉ある騎士資格を与えるのは教会内でも相当強い抵抗があったであろう事は容易に想像できる。
お兄ちゃんもその辺のことは充分理解しているのだろうが、そのことに対して直接感謝の言葉を述べることはなかった。おそらく、行動を持って感謝の意を示すつもりなのだろう。



「まさか、本当に管理局の人間が・・・」



「あのな、なのはちゃん・・・それなんやけど・・・」

「ごめん、なのは。私のせいなの。」



「???なんでフェイトちゃんが謝るの。どういうこと?」

「襲撃犯は、テスタロッサの熱烈なファンだったそうだ。」


シグナムさんが教えてくれたところによると襲ってきた局員はフェイトちゃんの熱烈なファンだったらしく、先日の事件の際親しげに話しているお兄ちゃんに殺意を覚えたそうだ。

その時あった会話が、

『俺を襲えと、誰に命じられた?』

『誰でもない俺自身が貴様を許せないだけだ。フェイトさんに色目を使いやがって、この犯罪者が!!』

『なぜにそこでフェイトの名が出てくる!?』

『フェイトさんを呼び捨てにするなッ、この女たらしのロリコン野郎。』

『・・・・・・』

ゴスッ

『襲撃の現行犯一名確保。』

周りの視線が痛かったとあとでもらしていたそうだ。



「フェイトちゃんは全然悪くないよ。フェイトちゃん優しいし美人さんだから、人気者は大変だね。」

「なのは・・・ありがとう。でも、なのはだって強くて可愛いから私より人気があるんだよ。」

「そやで、なのはちゃん、無自覚は罪やで。さっき念の為恭也さんに連絡取った時にな、言われたんよ『俺はなのはへのメッセンジャーじゃないぞ』て、どうも恭也さんがなのはちゃんの兄だと知った連中が『お義兄さん』と呼んでまとわりついてきてるらしいで、『将を射るには馬を射よ』ののりみたいやけどな。今のところ『順番が違うからまず本人に告白して受け入れてもらってから来い』って諭してるらしいんや、でもこのままだとその内『なのはと付き合いたければ俺を倒してからにしろ』とか言い出しかねへんで。」

「そ、それは駄目だよ。そんなことになったら、お嫁さんに行けなくなっちゃうよ。」

「大丈夫だよ、なのは。恭也さんだったらなのはの選んだ人なら認めてくれるだろうし、いざとなったら桃子さん頼ればいいんだから。」

「確かに、桃子さんの言うことやったら恭也さん聞くやろな。
でも、羨ましいわー。二人とも男の人に好かれてモテモテやもんな~。」

「あら、はやてちゃんにも結構アプローチはあるのよ。海鳴にいた時も結構家に男の子が訪ねて来てたみたいだし。
でもほとんど、シグナムとヴィータちゃんが追い返しちゃったみたいだけど。」

ギギギギ という擬音が聞こえそうな感じではやてちゃんがシグナムさんに顔を向ける。目が笑ってない。
シグナムさんが真っ青になりながら言い訳をする。

「主はやてを守るのが我等ヴォルケンリッターの勤め、あのような軟弱者達には主を任せることはできません・・・

「なあシグナム、あんた達が私の為を思ってやってくれるんは嬉しいんよ。でもな、これはやり過ぎや。『小さな親切大きなお世話』や、私の青春返してんか!」

「「・・・青春・・・あったかな?」」
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