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《ずるい》 [リリカルなのはss 外伝]

春には海鳴を離れてミッドに居を構える予定をしていたある冬の日。

私達魔道士3人組も参加予定だった大規模掃討作戦の任務が急遽キャンセルになったため、
放課後アリサの家で卒業旅行の計画を話し合うことになった。

なのはが資料を集めてくれていたので、着替えがてら資料を取りに高町家に寄ってからアリサの家に行くことにした。
ちなみにすずかとはやてはアリサと一緒に一足先にアリサの家に向かっている。





「すぐ、着替えてくるからリビングで待っててくれる。」

なのはに促され、リビングのドアを開けると点けっぱなしのテレビとソファ越しに黒い頭が見えた。

「お邪魔しています、恭也さん。」

いつもなら返答があるのだが画面に集中しているのか、何もリアクションがない。
邪魔をしないように静かにソファの前に回り込み、すごく珍しい光景を目にする。

そう、ソファに背を預け静かに寝息を立てている姿を。
気配に極めて敏感な人だから本来なら私達が家に近づいた時点で気付いて、出迎えてくれたはずだしあまつさえ他者の接近を無防備に許すことなどあり得ないはずなのに・・・。


改めて膝を抱えるようにしゃがんで、下から覗きこむ。


閉じられた瞳、高い鼻、引き結ばれた薄い唇。
・・・その寝顔は穏やかで、今までに見たことのないその無垢な表情に心臓が高鳴る

(・・・ズルイです)

(私はこんなにドキドキしてるのに)

(あなたはそんなに気持ち良さそうに眠っているなんて)

(だから、お仕置きしちゃいます)


彼が姉のような存在と言う女性が、訪ねて来た時親愛の情を込めてする挨拶。
彼はいつも照れくさそうにそれでいてどこか嬉しそうに受け入れていた。


カーペットに膝立ちして唇の高さを合わせ、起こさないように慎重に距離を詰める。
あと10センチ、あと3センチ、あと・・・





真っ赤に頬を染めて、リビングを出て後ろ手でドアを閉めたところで私服に着替えたなのはが2階から降りてきた。


「ごめんね、フェイトちゃん。待たせちゃったかな。」

「ううん、そんなことないよ。」

幾分、どもりながら返事をする私をなのはが訝しげに見つめ小首をかしげる。

「どうかした?フェイトちゃん、顔赤いみたいだけど。」

「何でもない、何でもないよ」と繰り返し「それより早く行かないとアリサ達が待ってるよ」と無理やりなのはを外に連れ出す。



アリサの家に向かう途中気になったことをなのはに尋ねてみる。

「う~ん、お兄ちゃんの寝顔、そういえば見たことないかな。
 だってほら、誰かが近づくとすぐ起きちゃうし・・・」

やっぱりそうなんだ、でもだったらさっきは何で。

「でも前にフィアッセさんが教えてくれたんだけど、一度だけ難しい護衛の仕事が終わって帰宅した後縁側で座りながら寝てたことがあったんだって。
『すっごく、可愛かったよ~』ってみんなに自慢してたんだ。」
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