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発端 [リリカルなのはss]

「なんで、お兄ちゃんがここにいるの?」

一人の若い女魔導師が呟く。

彼女の名前は『高町なのは』三等空佐、JS事件解決の最大の功労者の一人であり。最近新たに創設された、『時空管理局特捜課』の部隊長の一人である。
現在彼女は、チームの部下たる『ティアナ・ランスター』、『スバル・ナカジマ』両一等陸士と共に、昨夜発生した研究所所員集団殺害及び職員誘拐事件の容疑者が発見された現場に向かっていた。



発見現場は表通りから一本中に入った路地で、他部署の武装隊員との戦闘が行われていた。

容疑者たる全身黒尽くめの男は、被害者と思われる女性を後ろのビルの壁にもたれかけさせ、その前で迎撃を行っている。
被害者に特に外傷はないようであるが、動かないところを見るとどうやら気を失っているようである。

対して攻め手側は既に三人ほどが倒され、地面に横たわっていた。
後ろに保護対象者がいるので、大きな魔法が撃てないようである。
そこで、彼らは一人が前面から接近戦を仕掛けその隙に脇から保護対象者を連れ出そうと意図したが、行動を起こす直前に意図を察知され、前面の隊員が突然の飛来物にあせってシールドを張る間に横合いいから侵入していた武装隊員はみぞおちに膝蹴りを喰らい落ちた。

最後の一人になった武装隊員は、デバイスから射撃魔法を撃ち出す。
只、誤射だったのかスフィアの向かう先は容疑者である男ではなく、いまだ目を覚まさない女性の方だった。

「チッ」

男は小さく舌打ちすると女性とスフィアの間に自分の体を割り込ませる。
次の瞬間、男の右肩をスフィアが貫通した。



「非殺傷設定じゃない!?」
一連の光景を後ろで見ていたティアナが呟く。

現在管理局では魔法使用時原則『非殺傷設定』を義務付けている。
これは凶悪犯逮捕時も適用されるものである。
ましてや周りに民間人が多数いる状況、そして何よりも後ろに保護対象者がいる状況で『非殺傷』を解除することは非常識なのである。


そのことに対し彼女の部隊長たるなのはが武装隊員に抗議するより前に、突っ込んできた男が隊員の意識を刈り取る。

その時、彼女ははっきりと男の顔を確認した。

「・・・お兄ちゃん!?」

小太刀を抜刀し油断なく構える男は間違いなく彼女の実の兄『高町恭也』その人だった。

「な、なんで・・・?」

「・・・・・・」

「答えてよっ!!」

「時間がない、聞きたければ俺を倒して見せろ。」

「・・・クッ、スバルっ接近戦で牽制、ティアナは横を抜けて被害者の確保、その後安全圏まで移動させて。私が二人の援護をする。行って!!」

なのはの指示に二人が駆け出す、統制の取れた見事な連携である。
恭也は横を駆けるティアナに視線だけ送り、特に牽制の動きもしない。
視線が逸れたことを好機と捉え、スバルがマッハキャリバーで加速して恭也に突っ込む。

「いい踏み込みだ、スピードは申し分ない。だが、いかんせん素直すぎる。」
視線を逸らしたまま半身になり、伸ばされたスバルの腕を取って背負い投げる。

「カハッ」
バリアジャケット越しとはいえ、アスファルトに叩きつけられ一瞬息が詰まる。

直後、援護の誘導魔法アクセルシューターが殺到したため、恭也は包囲を避けるべくスバルから離れる。

スバルがよろよろと立ち上がり、仕切り直しと思った瞬間。

三人は恭也の姿を見失う、再びその姿を確認した時はスバルが膝から崩れ落ちるところだった。

「・・・神速・・・」

「ああ」

なのはの呟きに、眼前に迫り一振りの小太刀を振り上げた恭也が答える。
アクセルシューターのコントロールを解除し、シールドを張る。

上段からの振り下ろしを防いでいる時に、右に違和感を覚えとっさにシールドを張る。
遅れて、二刀目の斬撃が来た。

「見事、ならこれはどうだ?」

今度は、左から蹴りが来た。

《protection》
レイジングハートがシールドを展開する

ゴッ

蹴りそのものはシールドに止められているはずなのに、ダメージが左脇腹に徹り集中が途切れ吹き飛ばされる。

現状をいち早く確認する。

既にティアナは、被害者を確保し安全圏まで下がって護衛してくれている。
ならば、これ以上地上にとどまる必要はない。地上は彼のテリトリーなのだから。

そう判断して、アクセルフィンを展開して上空に逃れる。



「どうした、逃げてばかりでは俺を倒すことはできないぞ。」

「そんな、私は戦いたくないのに・・・」

「お前の覚悟は・・・、力はそんなものだったのか?」

「違う、私の力はみんなの守るためにある。例えお兄ちゃんでも負けないっ!!」

「強くなったな、なのは。」
兄は小さく笑みを浮かべる、彼をよく知る人でもない限り分からないものであったが。
「お前はそれでいい、信じた道を最後までまっすぐ歩め決してあきらめることなく。」

「バインド発動」
なのはも只上空に退避したわけでなく、対話している間に罠を仕掛けていた。
兄は戦闘における勘が異様に鋭いので直接のバインド攻撃はおそらく察知されて、よけられると考えたのである。ならばと彼を中心に円形に設置型バインドを仕掛け、回避先で拘束しようとした。そして、全ての準備が整ったところで直接のバインド攻撃を仕掛ける。

この攻撃を避けるには、魔法の使えない恭也は水平方向に逃げるしかないはずであり。それはつまり、この戦闘の終わりを意味していた。

彼が魔法を使えないのであれば・・・。





「う、うそっ」

「戦いにおいて思い込みは命取りになるぞ、なのは。」

そう言ってから彼は下を見やる、視線の先にはティアナと被害女性が見えた。



確かに彼は、空に浮いていた。



戦闘中に対峙している相手から、視線を逸らすなどもっともやってはいけない行為だった。
相手につられて注意を逸らした愚か者にティアナからの警告が飛ぶ。

「なのはさんっ!!」

気付いた時には後ろから、抱きすくめられるようにして首筋に小太刀を突きつけられていた。

「あの子を俺の代わりに守ってやってくれ、頼んだぞ。なのは。」

「えっ、どうい「少し眠ってろ」ぅ・・・」

首筋に軽い衝撃を受け薄れいく意識の中、兄の辛そうな謝罪の言葉が聞こえたような気がした。
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