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因果 [リリカルなのはss]

爆煙が晴れると、そこにはへたりこんだティアナと、血のしたたるククリナイフを持ったソニア提督がいた。
そしてその前には、肘から切り落とされた男の子の右腕と跡形もなく吹き飛んだ男の子だった肉の塊があった。

しばしの錯乱状態から覚め、それを見たティアナはこみ上げる不快感に思わず嘔吐する。
嘔吐こそしなかったものの、なのは達旧6課のメンバーも似たようなものだった。

「油断するなといったはずだ、それに躊躇せず殺せと」

確かにその通りなのである、子供だからといって警戒もせず近づき、相手の意識を刈り取るなりして戦闘不能にしたわけでもないのに投降を呼びかけた。
その結果、突き付けた腕を掴まれ自爆に巻き込まれそうになった。
そうならなかったのは、その事態に気付いたソニア提督が掴んでいた腕を切り男の子を蹴り飛ばしたからに過ぎない。



「今日はもう撤収だ。話があるなら明朝私のオフィスに来い。」




-翌朝-
本局 武装9課 オフィス

「で、何が聞きたい」
応接室にいるのは正面にソニア提督、左にはやてちゃん、右にフェィトちゃん、そして私だった。

「その前に、昨晩はありがとうございました。部下を救っていただいて感謝しています。」
特捜課 課長としてはやてちゃん、直属の上司として私がそれぞれ提督に頭を下げる。

「あそこでお前らに死なれると、後々こっちが嫌味を言われるから助けただけだ。礼を言われるほどのことではない。」
そっけなく返される。

「では、改めて質問させていただきます。
 まず、昨晩の子は何ですか?」

「アレは、我々が今追っている組織が造った人造兵器だ。」

「造った?」
男の子をアレ呼ばわりするソニアに反感を覚えながらも疑問を口にするフェイトちゃん。

「そう、あるプロジェクトの技術を使い人工生命体を造り培養液体カプセルで急速成長させた後、あらゆる状況で戦えるように各種戦闘訓練を積ませた兵器だ。そして、各個体の心臓部には半径2mは木っ端微塵に吹き飛ばせるだけの爆弾が埋め込まれている。
ちなみに、起爆は各個体の意思ひとつでできる。」

「・・・プロジェクトF」

「ご名答。そういう意味では昨日のアレは、あんたの弟だったのかもしれないね。」
ポツリとつぶやいたフェイトちゃんに、にやけながらソニア提督は告げる。


「そんな言い方しないで下さい!!フェイトちゃんは自分の意思で一生懸命生きています。あそこにいた子達と一緒にしないでっ!!」

「ほう、そうするとあんたは昨日のアレは人ではないと認めるんだ。」

「そ、そんなこと言ってません。」



重い沈黙がその場を支配する。




「私からもひとつお伺いしてもよろしいですか?」

沈黙を破ったのははやてちゃんだった。
提督が軽く頷くのを確認して発言する。

「今回の相手が最終的に自爆する可能性があったことは理解しましたが、今回の制圧方法は適切だったのでしょうか?部下の報告書を見る限り過剰制圧かと。自爆される可能性があるなら、非殺傷の方法で意識を刈り取り後に適切な場所で爆弾を取り出せばよかったのではないですか?」

「・・・・・フッハッハッハッッ」
突然笑い出した提督に私達が呆然としてしまった。

「ほんと、あんたら甘ちゃんだね。アレの爆弾は細工がしてあって遠隔操作で任意の個体を起爆できるのさ、もちろん個体の起動状態は関係ない。殺害後でも不用意に近づけばリーダーからの起爆信号で、爆発に巻き込まれる。
さらに、爆弾そのものも心臓に埋め込まれる形でつけられていて外した時点で起爆するようになってるし、よしんば起爆しなかったとしても臓器としての機能が果たせなくなってどの道死ぬのさ。」

「「「・・・・・・」」」

「まあ遠隔操作に関しては作戦時にECMをかけることによって、ある程度防止できるが完璧じゃない。
対抗手段をとられればやはり起爆されてしまう、それを防ぐには胸にある受信機を破壊するしかないのさ。」

「そ、それでも・・・」
かろうじて、声をしぼり出す。

「それでも、助けたいってか。助けてどうする、仮に連れ帰ったところで研究体として解剖されるか安全の為に爆破処理されるだけだぞ。」

「・・・ひどいです。」

「『ひどい』ね、どっちが?アレを造った奴らか、それとも助けようともせず壊すだけのあたしらか。」

「どっちもです。」

「ハンッ、優等生の回答ありがとよ。何も知らずにのうのうと生きてきた甘ちゃんに言われたところで痛くもかゆくもないわ。」

「今の発言は取り消してください!!」
フェイトちゃんが、真っ赤になって立ち上がる。

「なんで?」

「なのはは、なのははいつだって他の人の為に自分を犠牲にしてがんばっているんです。この前だって、魔法がもう使えなくなるかもしれないくらいの怪我もしたし、その前は無理して本当に死の淵をさまよって一生歩けなくなるかも知れない状態になって・・・でもそれでもあきらめなかった。」

それがどうした!!
一度や二度死に掛けた そんなもん武装局員なら当たり前だ、その程度の覚悟もないなら今すぐ部署を変わりやががれッ!!」

「私はな昨日よりひどい現場を幾度となく体験している、子供が当たり前のように売られ性のはけ口にされたり。生きるための手段として武器を取り、意味も分からず人殺しをする子達を。
なんで昨日のあれが子供だったか分かるか、培養期間の効率的な問題もあるが相手側に対する心理攻撃的なところもあるのさ。
まともな人間だったら子供だったら油断もするし、傷つけることに抵抗感を覚えるからな。」

何も言えない私達に向かって、提督は自嘲気味に笑う。

「そうだ、もう一個面白いことを教えておいてやろう。
あいつらの中にはごくまれに、爆弾が仕込まれてない奴もある。もちろんその個体には知らされてないけどな。」

「何でって?顔してやがるな。簡単なことさね、お前らみたいな甘ちゃんの『心』を壊すためさ。
考えてもごらん、殺さなければ自爆するからと思って無理矢理自分を納得させて殺したら、実は殺さなくても助けられましたなんて後で分かったらどうなる。」

「この課の人員が10名に満たない理由が分かるかい、まともな奴じゃやっていけないのさ。狂った奴だけが生き残れる。」

「ま、どの道あんた達じゃ役に立たないからこの件から手を引きな。」




「お兄ちゃんは・・・いえ兄はできたんですかこの任務を。」
しばらくの沈黙の後、私は一番気になっていたことを聞く

「ああ、もちろんさ。あんたの兄貴は誰よりもうまく、より多くこの仕事をこなしてくれたよ。ためらいなく確実に一撃で意識を刈り取り、心臓を一突きしてね。いい駒だったんだが、厄介な事件を起こしてくれたもんだ。おかげで、こちらまで疑いの目を向けられちまった。」

「・・・そうですか」

その答えを聞いた後、私達三人はオフィスを後にした。
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